
開発の端緒は、疾患のメカニズムに基づいた「創薬シーズ(種)」の探索である。数万〜数十万の化合物の中から、医薬品の候補となる物質を選抜する。

@疾患メカニズムの解明とターゲット特定 ゲノム解析やプロテオーム解析等を駆使し、疾患の発症や進行に関与する生体内の分子(タンパク質、受容体、酵素、遺伝子等)を特定する。これが創薬の標的(ターゲット)となる。
Aリード化合物の創出(スクリーニング) 特定されたターゲットに対して活性を示す物質を探索する。ハイスループットスクリーニング(HTS)やAIを用いたインシリコ創薬(コンピューターシミュレーション)を駆使し、膨大な化合物ライブラリーから「ヒット化合物」を見つけ出し、さらに最適化して「リード化合物」へと絞り込む。
B最適化と候補化合物の選定 リード化合物の化学構造を修飾し、活性の強さ、選択性、物性(溶解性等)を向上させる。最終的に、次段階へ進むべき「開発候補化合物」を決定する。
ヒトに投与する前に、動物や培養細胞を用いて有効性と安全性を科学的に評価するプロセスである。この段階の安全性試験は、GLP(Good Laboratory Practice:医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準)に準拠して厳格に行われる。

@薬効薬理試験(Pharmacology) 疾患モデル動物や細胞を用い、期待される治療効果(有効性)およびその作用機序(MOA)を薬理学的に証明する。
A薬物動態試験(PK/ADME) 薬物の生体内運命を解析する。吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)の頭文字を取りADME(アドメ)試験とも呼ばれる。生体利用率や半減期、代謝経路を明らかにする。
B安全性(毒性)試験(Toxicology) 単回および反復投与毒性、遺伝毒性、生殖発生毒性、発がん性などを評価する。どの程度の量までなら安全か(無毒性量:NOAEL)を算出し、ヒトでの初回投与量を設定する根拠とする。
非臨床試験のデータは、治験届の提出および臨床試験のプロトコル作成において不可欠なエビデンスとなる。
ヒト(健康成人および患者)を対象に、有効性と安全性を検証する最重要プロセスである。GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準)に基づき、被験者の人権保護と安全確保を最優先に実施される。

@第T相試験(フェーズ1) 主に少数の「健康成人」を対象とする(抗がん剤等は除く)。被験薬を少量から段階的に増量し、安全性(忍容性)と薬物動態(体内での挙動)を確認する。
A第U相試験(フェーズ2) 少数の「患者」を対象とする。有効性と安全性を確認するとともに、最適な用法・用量を探索する(前期第II相、後期第II相)。PoC(Proof of Concept:概念実証)を取得する重要な段階である。
B第V相試験(フェーズ3) 多数の患者を対象とした大規模な検証的試験である。既存薬やプラセボ(偽薬)との比較試験(ランダム化二重盲検試験等)を行い、標準治療に対する優越性や非劣性を統計学的に検証する。
臨床試験で得られた成績が、承認申請の核心データとなる。なお、承認取得後に行われる製造販売後臨床試験は、第W相試験とも呼ばれる。
臨床試験までの全データをCTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)としてまとめ、厚生労働省に製造販売承認申請を行う。実質的な審査はPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が担う。

@審査(Review) PMDAの審査チームにより、品質(CMC)、薬理、毒性、臨床の各データについて、科学的妥当性と信頼性が精査される。「リスク・ベネフィットバランス」の観点から、承認の可否が判断される。
A実地調査(GCP/GMP Inspection) 申請資料(データ)の信頼性を確認する適合性書面調査や、GCP実地調査が行われる。また、製造所に対しては、GMP(Good Manufacturing Practice)適合性調査が実施され、適切な製造管理・品質管理体制にあるかが確認される。
B薬事・食品衛生審議会への諮問・答申 PMDAの審査報告書に基づき、厚生労働省の審議会で専門家による審議が行われる。
C承認(Approval) 厚生労働大臣により製造販売承認が付与される。これにより、製品の市場流通が可能となる。
発売はゴールではなく、実臨床での評価のスタートである。治験では得られなかった情報を収集するため、GPSP(製造販売後の調査及び試験の実施の基準)およびGVP(製造販売後安全管理の基準)に基づき、継続的な監視が行われる。

@使用成績調査・特定使用成績調査 日常診療下での使用実態、小児や高齢者、合併症を有する患者など、治験では除外されていた患者層における安全性・有効性を確認する。
A市販直後調査 新薬発売後の半年間、集中的に副作用情報を収集し、重篤な副作用の早期発見と適正使用の喚起を行う。
BRMP(医薬品リスク管理計画)の実践 開発段階から判明しているリスク(特定されたリスク)や、情報が不足している点(不足情報)について、市販後の安全対策を計画・実施・評価するサイクルを回す。
C再審査制度 新薬は原則として8年間(希少疾病用医薬品等は10年)、再審査期間が設けられる。この期間中に収集されたデータを基に、有効性と安全性の再確認が行われる。
基礎研究から上市に至る確率は、一般的に1万分の1から3万分の1程度と言われる。開発期間は9〜17年、開発費用は数百億〜一千億円以上を要するハイリスク・ハイリターンなプロジェクトである。

近年は「アンメット・メディカル・ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)」への対応が求められ、創薬の難易度は年々高まっている。成功確率を向上させるため、バイオマーカーの活用、AI創薬、リアルワールドデータの利活用など、開発プロセスの革新が進められている。
新薬の誕生は、世界中の患者のQOL(生活の質)向上と生命予後の改善に寄与する、極めて社会的意義の大きい成果である。
| GxP (Good x Practice) |
医薬品の研究開発から製造、販売、市販後安全対策に至るまでの全ライフサイクルにおいて、遵守すべき「適正基準」の総称。 xには各段階のアルファベットが入る(例:GLP, GCP, GMP, GQP, GVP, GPSP)。安全性と信頼性を担保するための規制要件である。 |
|---|---|
| CMC (Chemistry, Manufacturing and Control) |
原薬・製剤の「化学的性質」「製造工程」「品質管理」「安定性」等に関する研究およびデータの総称。 臨床試験が「ヒトでの有効性・安全性」を見るのに対し、CMCは「モノとしての品質・恒常性」を保証する基盤となる。 |
| CTD (Common Technical Document) |
日米欧(ICH)で合意された、医薬品承認申請のための国際共通化資料(コモン・テクニカル・ドキュメント)。 世界共通の様式で申請資料を作成することで、グローバル開発および審査の効率化が図られている。 |
| PoC (Proof of Concept) |
「概念実証」と訳される。 新薬候補物質が、ヒト(患者)において想定通りの治療効果を示すことを、臨床試験(主に第U相試験)で初めて確認する段階を指す。PoCの取得は、開発のGo/No-Go判断における最大の関門である。 |
| In silico (インシリコ) |
「シリコン(コンピューターチップ)の中で」という意味の造語。 試験管(In vitro)や生体(In vivo)を用いた実験ではなく、コンピューターシミュレーションを用いて薬物相互作用や毒性を予測する手法。開発期間の短縮に寄与する。 |
| Unmet Medical Needs (アンメット・メディカル・ニーズ) |
未だ有効な治療法が確立されていない、満たされない医療ニーズのこと。 難病、希少疾患、認知症などが該当し、近年の創薬ターゲットの主流となっている。 |