医薬品開発(新薬)の流れを次に示す。
医薬品開発の最初の段階では、疾患や健康問題に関連する基礎的な科学的研究が行われる。
@疾患のメカニズムの解明
基礎研究では、特定の疾患や健康問題の発症メカニズムや病態生理学を理解するための研究が行われる。
これには細胞レベルや分子レベルでの生物学的プロセスの解析や、病気がどのように発生し進行するのかを明らかにするための研究が含まれる。
A新たな治療標的の特定
疾患の原因となる分子や生物学的な標的を特定することが重要である。例えば、特定のタンパク質や遺伝子、受容体などが疾患の進行に関与している可能性がある。
これらの標的を特定することで、新たな治療法の開発に向けた方向性が見えてくる。
B医薬品候補の発見
治療標的を特定した後、それを調節するための候補となる化合物や薬剤の探索が行われる。
これには、化学的なスクリーニングやコンピューターシミュレーションを利用したバーチャルスクリーニングなどの手法が用いられる。
医薬品開発の非臨床試験は、実際の人間ではなく動物モデルや細胞モデルを用いて、候補化合物や新薬の安全性や効果を評価する段階である。
@安全性の評価
候補化合物や新薬の安全性を評価するために、動物モデルを使用して毒性試験が行われる。
これにより、候補薬の投与による動物の生理的な変化や有害な影響を評価し、人間への投与における安全性を予測する。
A薬物動態(PK)・薬物動力学(PD)の評価
候補化合物の体内での動きや代謝、作用メカニズムなど、薬物の動態と薬力学に関する評価が行われる。
これにより、投与量や投与頻度、薬物の体内での挙動などが理解できる。
B有効性の予測
候補化合物が疾患の治療や予防に対してどの程度効果を持つかを予測するための試験が行われる。
これは、疾患モデルや細胞モデルを用いて、候補化合物の効果や作用機序を評価することを含む。
C毒性試験
候補化合物が動物モデルにおいて、肝臓や腎臓、神経系などの臓器に対してどの程度の毒性を持つかを評価する。
これには、慎重な生理学的・病理学的な解析が含まれる。
DDMPK評価(薬物代謝・薬物動態・薬物のADME特性)
薬物の代謝経路、薬物の吸収・分布・代謝・排泄(ADME)、薬物の作用持続時間など、候補化合物の詳細な特性を評価するための研究が行われる。
Eデータ収集と解析
非臨床試験では、試験結果の収集と解析が重要である。
得られたデータは、薬物の安全性と効果を評価し、臨床試験に進むための予備的な情報として活用される。
非臨床試験は臨床試験に進む前の段階であり、人間への投与に先立つ段階である。
安全性と有効性のデータを収集し、医薬品が人間で試験される前にその可能性を評価することが目的で、最も有望な候補化合物が臨床試験に進むための基盤が築かれる。
医薬品開発の中でも最も重要な段階のひとつで、人間を対象とした臨床試験が行われる。通常、第I相から第V相まで段階的に進められる。
臨床試験は新薬の安全性と効果を確認するために行われ、参加者に新薬の投与や偽薬の投与などが行われる。
@第T相試験
第I相試験は、通常、健康なボランティアを対象に行われる。
この段階では、新しい医薬品や治療法の安全性が主に評価されます。医薬品の投与量や投与方法などが調整され、初期の安全性データが収集される。
A第U相試験
第II相試験は、特定の疾患を持つ患者を対象に行われる。
この段階では、医薬品の有効性と安全性がより詳細に評価される。通常、複数の患者が参加し、治療効果や副作用の評価が行われる。
B第V相試験
第III相試験は、大規模でランダム化された臨床試験であり、新薬が標準治療法と比較される。
数百から数千の患者が参加し、治療の有効性と安全性をより広範囲かつ確実に評価することが目的である。
C規制当局の監視
臨床試験は、厚生労働省やPMDAの規制当局によって厳密に監視される。
試験は倫理的なガイドラインに基づいて実施され、参加者の権利と安全性を保護するための倫理委員会や規制当局の承認を必要とする。
また、試験の進行中にデータが定期的に監視され、試験の中止や修正が必要な場合には即座に行動される。
臨床試験は医薬品の開発プロセスにおいて非常に重要であり、新しい治療法や医薬品の承認に向けた最終的な段階である。
安全性と有効性のデータが確認された場合、規制当局への承認申請が行われる。
また、新薬の承認後には第W相試験が行われ、これも明確に規定されている。
この段階では、広範な患者集団での長期間の使用における安全性や有効性を評価するために行われ、副作用の監視や追加の情報収集が行われる。
臨床試験が成功した場合、医薬品の製造と販売のための承認申請が行われる。
規制当局は、提出されたデータを評価し、医薬品の安全性と有効性を審査する。
日本における医薬品の承認申請と審査は、厚生労働省およびその関連機関である日本医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, PMDA)によって行われる。
@承認申請の準備
医薬品の開発者は、臨床試験や非臨床試験などで得られたデータを基に、新薬の承認申請書を準備する。
この申請書には、医薬品の安全性、有効性、品質に関する包括的な情報が含まれる。
A申請の提出
承認申請書は、厚生労働省やPMDAに提出される。
申請には、臨床試験データ、薬理学的、毒性学的データ、品質管理に関する情報などが含まれる。
B初回審査
PMDAは提出された申請書を受け取り、初回審査を行う。
この段階では、申請書が規制要件を満たしているかどうかを評価する。適切な文書、データ、情報が提供されているか確認される。
C審査
承認申請の審査プロセスは、安全性と有効性の評価に焦点を当てる。
PMDAの専門家や委員会が提出されたデータを分析し、科学的な根拠に基づいて医薬品の利益とリスクを評価する。
D追加情報の提出と対応
PMDAからの要求に基づき、追加の情報やデータが求められる場合がある。
開発者はこれに対応し、必要な情報を提供することが求められる。
E承認または拒否
審査プロセスが完了すると、PMDAは医薬品の承認または拒否の判断を下す。
有効性、安全性、品質の観点から判断され、承認が与えられる場合、薬事承認(Marketing Authorization)が付与される。
F市場投入と監視
承認が与えられた医薬品は市場に投入されるが、その後も安全性や有効性の監視が継続される。
副作用の報告や新たなデータの提出が求められる場合がある。
日本における医薬品承認申請と審査プロセスは厳格であり、国際的な規制基準に基づいて行われる。
安全性と有効性の確保が最優先され、科学的根拠に基づいた審査が行われる。
承認を受けた医薬品は市場に投入され、患者に提供される。
同時に、医薬品の安全性と効果の監視も継続され、市販後のデータや副作用の報告が追跡・評価される。
@市場投入
医薬品が承認を受け、製品が市場に投入される。医師や患者が処方され、購入可能になる。
A副作用の監視
市場投入後も副作用や新たな安全性の問題が発生する可能性がある。
医療従事者や患者からの副作用報告が重要であり、これらの情報は製造業者や規制当局に報告される。
B後期臨床試験や追跡調査
医薬品が市場に投入された後も、追加の臨床試験や追跡調査が行われることがある。
これにより、長期間の使用における安全性や有効性が評価される。
Cリスク評価と管理
市場投入後も、医薬品のリスク評価と管理が継続される。
特に重大な副作用やリスクが発生した場合、製造業者は迅速に対処するための情報提供が求められる。
D規制当局への報告
医薬品の製造業者は、市場投入後も定期的に規制当局に報告を行う。
これには、薬物の安全性や有効性に関するデータ、副作用の報告、品質管理に関する情報などが含まれる。
EPost Marketing Surveillance(PMS)
PMSは、市場投入後の医薬品監視プログラムの一環で、製品の安全性と有効性を継続的にモニタリングするために実施される。
これには、実際の患者の使用結果の集積と分析が含まれる。
医薬品の市場投入後の監視は、新たな情報や安全性の問題を早期に検出し、必要に応じて対応するために非常に重要である。
規制当局や製造業者、医療従事者、患者が協力して、医薬品の安全性と有効性を確保するための継続的な監視が行われる。
製造販売後調査は、ある疾患に罹患している患者の状態について情報(例.性別、年齢、人種、合併症、他医薬品との組み合わせによる影響等)を集めることで、どのようなことに注意すれば、患者に、より良い治療方法を提供できるのかを明らかにする一助となる。
基礎研究から製造・販売まで、くすりの開発には長い期間と多くの費用が必要で、新薬の開発には平均して10年以上、数百億円以上かかるといわれる。
社会に革新的な医薬品を提供する可能性があるが、その過程は非常に困難でリスクが伴う。
基礎研究で探した新薬候補が実際に発売できる確率は2万〜3万分の1といわれ、開発は年々難しさを増している。
失敗率を低減し、効率的な医薬品開発を進めるためには、より効果的な予測ツールや効率的な臨床試験の実施、革新的なアプローチが必要である。
以上のように医薬品開発は、失敗のリスクや高い投資費用を考慮する必要があるが、成功すれば世界中の人々の健康に大きな影響を与えることができる。