医薬品製造における水の必要性と種類
医薬品製造における水は、品質の一貫性と製品の安全性を確保するために欠かせないものであり、国際的には各種規格やガイドラインに基づいて水質基準が設定されている。
以下に、医薬品製造における水の必要性についてのポイントを挙げる。
【医薬品製造における水の必要性】
製造プロセスへの使用 | 医薬品の合成、反応、精製などの製造プロセスにおいて、高品質で純粋な水が必要。製造プロセスで使用される水は、原材料や反応条件との相互作用が最小限に抑えられ、製品の品質に影響を与えないようにする。 |
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原材料の調製 | 医薬品の製造においては、様々な原材料が水を介して調製される。これにより、反応が適切に進行し、製品の特性が確保される。 |
洗浄およびクリーニング | 製造装置や容器、管路などのクリーンアップや洗浄に高品質な水が必要。製品のクリーンラインなどを維持するために、微生物や不純物の除去が行われる。 |
溶媒としての利用 | 医薬品の製造においては、反応溶媒として水が使われることがある。特に水は、多くの有機および無機物質と良好な親和性を持ち、さまざまな反応条件において使用される。 |
制御された環境の構築 | 製造環境内での温度や湿度の制御にも水が関与する。これにより、製造プロセスの安定性が確保され、製品の一貫性が向上する。 |
注射剤および浸透圧調整 | 医薬品製造では、注射剤や浸透圧調整などの用途で、高品質かつ純粋な水が必要。これにより、製品の安全性が確保され、患者に対して安全な医薬品が提供される。 |
製品の最終検査 | 製品の最終検査や評価にも水が使用されることがある。特に液体製剤や注射剤などは、水の品質が製品の最終品質に直接影響を与えることがある。 |
医薬品の原材料には有効成分や添加剤などがあるが、この他に医薬品に含まれるものが「水」である。
医薬品製造に使用される水は「製薬用水」と呼ばれる。
製薬用水の用途は、実に広い。原材料を溶解するための水、造粒時に添加する水などは、最終的に製品に含まれることになる。
また、製品に接触する製造設備や容器類の洗浄・滅菌でも大量の水や蒸気を使用する。
特に注射剤の中身のほとんどは注射用水と呼ばれる製薬用水である。
もし、製薬用水の品質が悪ければ、水そのものもしくは残留した成分が、人体に入り込む可能性がある。
このため、製薬用水は一般の水とは区別して管理されている。
製造工程で使う主要機械を生産設備と呼ぶことに対し、製造に必要なユーティリティ(用役)や空調設備のことを製造支援設備と呼ぶ。
製造支援設備はGMP対象なので、製薬用水もGMP対象として管理しなければならない。
製薬用水の品質を恒常的に確保するためには、要求される品質の水が供給されることを適切なバリデーションにより検証するとともに、日常的な水質管理によりそれを保証し続けることが重要である。
製薬用水は、医薬品製造において使用される高品質で純粋な水の一種であり、厳格な品質基準に従って製造される。
製薬用水に含まれる不純物は、医薬品を介して人体に取り込まれる可能性がある。また、品質試験では試験結果に影響を及ぼす可能性もある。
このため、製薬用水からは人や試験に影響がないレベルまで不純物を取り除く必要があり、日本薬局方に水質の基準が示されている。
日本薬局方には製薬用水の規格として、常水、精製水、精製水(容器入り)、滅菌精製水(容器入り)、注射用水、注射用水(容器入り)が示されている。
【製薬用水の種類】
常水 | 水道法第4条に基づく水質基準に適合した水。 井水、工業用水等から製造する場合は、アンモニウムの試験(0.05mg/L以下)に適合すること。また、一時的に保存して用いる場合は、微生物の増殖抑制を図る必要がある。 「常水」は、「精製水」や「注射用水」製造用の原水として用いられるほか、原薬中間体の製造や製薬関連設備の予備洗浄にも用いられる。 |
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精製水 | 「常水」を超ろ過(逆浸透、限外ろ過)、イオン交換、蒸留又はそれらの組み合わせにより精製した水。 |
精製水(容器入り) | 「精製水」を気密容器にいれたもの。 「精製水」は、原水として「常水」を用い、必要な前処理を経て、イオン交換、蒸留、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)又は分子量約6000以上の物質を除去できる限外ろ過(UF:Ultrafiltration)などを単独であるいは組み合わせて用いたシステムにより製造する。「精製水」の製造にあたっては、適切な微生物管理が必要である。 |
滅菌精製水(容器入り) | 「精製水」を気密容器にいれ、滅菌して製したもの、又はあらかじめ滅菌した「精製水」を無菌的な手法により無菌の容器に入れた後、密封して製したものである。 なお、密封容器の代わりにプラスチック製水性注射剤容器を用いてもよいこととされている。 |
注射用水 | 「常水」にイオン交換、逆浸透等による適切な前処理を行った水又は「精製水」の、蒸留又は超ろ過により製したものである。 蒸留法により製造する場合、飛沫同伴による汚染が起こらないように留意する。 超ろ過法により製造する場合、長期間にわたるバリデーションと綿密な日常管理により、蒸留法により製造した水と同等の品質の水が恒常的に製造されることが保証される必要がある。 逆浸透膜又は限外ろ過膜を単独であるいは組み合わせて用いた注射用水製造システムのいずれにおいても、注射用水に適した水が安定して製造されることが、前処理装置を含む製造システム全体によって保証されることが肝要である。 製造システムに供給される水に関しては、適切なバリデーションと日常管理により、原水として適切な水質が維持されていることを担保する。 超ろ過法による製造システムに関しては、水質分析、計器によるモニタリング及び透過水量監視等の日常管理を行うとともに,定期的な膜の外観検査及びエアリーク試験を実施し、併せて使用した膜の引張り強度、リークの有無や程度について試験を行って膜の劣化の度合いを診断し、膜交換の指標あるいは膜の破断の予知方法とするなど、膜の管理手法を確立しておくことが望ましい。 また、これらに加えて、膜の使用条件に見合った適切な交換頻度を定めておくことが望ましい。 |
注射用水(容器入り) | 「注射用水」を密閉容器にいれ、滅菌して製したもの、又はあらかじめ滅菌した「注射用水」を無菌的な手法により無菌の容器に入れた後、密封して製したものである。 なお、密封容器の代わりにプラスチック製水性注射剤容器を用いてもよいこととされている。 |
「容器入り」の水に対し、製薬用水設備で製造されて貯蔵された(容器に詰められていない)状態の水を「バルク」という。
一般的に医薬品の製造ライン(仕込み用、洗浄用等)で使用されるのはバルク水である。
水に含まれる不純物の指標となるのが、導電率と全有機体炭素(Total Organic Carbon:TOC)である。
導電率には水中の無機塩類の量が、TOC値は有機不純物の量がそれぞれ反映される。そこで、「精製水」と「注射用水」の規格には、TOCと導電率の基準値が示されている。
【製薬用水の規格】
精製水 | 純度試験:有機体炭素0.50mg/L以下 導電率:2.1μS/cm(25℃) |
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注射用水 | 純度試験:有機体炭素0.50mg/L以下 導電率:2.1μS/cm(25℃) エンドトキシン:0.25EU/mL未満 |
水中の微生物の増加は水質劣化につながる。
そこで、製薬用水の製造及び貯蔵においては、水中の生菌数とエンドトキシンの濃度を基準値以下に抑えるような管理が求められる。
製薬用水の規格は、各水の用途を考慮して規定されている。一般的に、最終製品に近い工程で使用される製薬用水ほど、不純物が少なく厳しい管理が要求される。
【製薬用水の用途】
製薬用水区分 | 使用例 | 適用区分 |
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常水 | 「精製水」や「注射用水」の原水として用いられる他にも、原薬を製造する際、中間体の仕込みや洗浄に使用される場合もある。 | 原薬中間体 |
精製水 | 原薬の最終精製工程や非無菌製剤(固形製剤など)の製造において、仕込み水や洗浄水として使用されている。点眼剤では微生物を管理した精製水、液剤・軟膏剤などは微生物学的に適切な管理を行 った精製水が使用される。 | 一般原薬、点眼剤、液剤、軟膏剤 等 |
注射用水 | 注射剤の仕込み水として用いられるだけではなく、「精製水」で洗浄した製造装置や器具類、注射剤に接する容器の表面をすすぐ(リンス)ためにも使用される。 | 注射剤、無菌原薬、眼軟膏剤 等 |
注射用水は微生物に加え、発熱物質であるエンドトキシンもより管理される。微生物は注射剤の製造工程にある最終滅菌(オートクレーブ)やろ過滅菌によって除去できるが、エンドトキシンは除去できない。
280℃以上で滅菌する乾熱滅菌では熱分解するが、オートクレーブを用いた蒸気滅菌では分解されず、ろ過滅菌のフィルターも通過してしまう。
そこで、エンドトキシンは注射剤の製造工程中に持ち込まないようにする必要がある。
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