製薬用水設備は規格に合致する水準まで、原水に含まれる不純物を取り除くための一連の装置群(トータルシステム)である。このため、原水の水質や装置の能力によって設備構成が変わってくる。
原水の水質は設備構成を決定する上で極めて重要である。設計に際しては、季節変動を含めた詳細な水質データを入手することが望ましい。
次に、製薬用水の製造設備の一例を示す。
まず前処理として、「常水」の基準を満たす原水から、逆浸透膜に付着しファウリング(汚れ)になる有機物や、逆浸透膜を劣化させる残留塩素を除去するため、活性炭ろ過を行う。
次に、逆浸透(Reverse Osmosis:RO)膜で、イオン、微粒子、パイロジェンを除去し、その後、イオン交換器(連続電気再生式イオン交換器、Electric De-Ionization System:EDI)でイオンをさらに除去する。
製造装置では、純水装置の精製速度が遅いため、純水を一時貯留するためのタンクが必要となる。しかし、純水をタンクにためることにより、純水中の微生物が増殖することが危惧される。
そこで、UV(短波長紫外線)ランプで微生物を殺菌する。波長は、254nmの紫外線が利用される。254nmの短波長紫外線(UV)は、微生物の遺伝子を損傷し、微生物の繁殖を抑制する働きがある。
なお死滅した細菌は、採水時の中空糸フィルターにて捕捉し、「精製水」が製造される。
RO膜とEDIによってイオン類をほとんど除去したのち、限外ろ過(Ultrafiltration:UF)膜によって、微生物や微粒子・パイロジェンをさらに除去し、「UF水」が製造される。
「注射用水」は、精製水よりも厳しい微生物管理とエンドトキシンの除去が求められる。精製水を蒸留器で蒸発させたのち凝縮することで(蒸留法)水中からエンドトキシンを除去し、「注射用水」を製造している。
蒸留器は、供給水を蒸発缶で蒸発させコンデンサーで凝縮する装置である。複数の蒸発缶を直列につなぎ熱回収をする多重効用式の蒸留器では、熱源の蒸気を削減できるので省エネルギー対策として有効である。
「精製水」および「注射用水」の使用箇所(ユースポイント)は工場中に多数あり、使用量は時間ごとに変化する。ピーク時の使用量をもとに装置類を選定しては無駄が多いので、製薬用水はある程度の大きさのタンクに貯め置いて、そこからユースポイントに供給される。
不純物を取り除いた製薬用水は、塩素が含まれた水道水に比べ、微生物が繁殖しやすく非常に劣化しやすい。そこで、製薬用水の供給設備には、微生物の増殖を抑制し水質を維持するための工夫がされている。
まず、水が滞留する箇所には微生物が増殖しやすいので、供給水は常時循環させる。例えばタンクの上面や気液境界面も水流を当てるためにスプレーボールを設置し、滞留しやすいセンサー座や分岐部などはデッドレッグと呼び、分岐部が乱流で常時洗われるよう設計を行う。
また、精製水よりも厳しい微生物管理が要求される「注射用水」では常時高温(80℃以上)のまま循環させ、ユースポイントにおいて個別に冷却し供給を行う場合も多い。
製薬用水を供給する設備の系内は、定期的に殺菌もしくは滅菌ができるように設計し(熱水殺菌用の熱交換器を設置、滅菌用の純蒸気の供給等)、定期的な滅菌や殺菌によって、バイオバーデン(材料や製品上(中)に存在する生育可能な微生物の集団)を下げることも重要である。
もしも設備内にバイオフィルムと呼ばれる微生物の集合体が形成されると、たとえ滅菌を行っても数日間で再び微生物が繁殖し、生菌数の基準を満たすことが難しくなる。
バイオフィルムとは、微生物や微生物の集合体が水の表面に付着して形成される薄い生物膜である。
これは細菌、真菌、アオミドロ、およびその他の微生物から成り立っている。
バイオフィルムが形成された場所では、微生物が水に溶け込むことがあり、製薬用水の品質に悪影響を与える可能性がある。
微生物の代謝産物や細胞壁成分が水に溶け込むことでエンドトキシンの濃度が上昇する可能性があるためである。
バイオフィルムは通常、生物学的に安定した構造を持ち、通常の清掃や消毒では除去が難しいことがある。
この場合、化学的な洗浄(アルカリによる分解)と物理的な洗浄(ごしごし洗う)によって除去するが、洗浄中は製薬用水が使用できず、製品の製造を中断することになる。
また、天井裏の隠蔽配管にバイオフィルムが発生したため新しい配管にとりかえたケースもある。
医薬品製造における製薬用水設備の不具合は、大きな損失を伴うことになる。
バイオフィルムのコントロールは、GMPや製薬業界の規制要件に準拠するために重要である。
製薬用水設備も生産設備と同様、バリデーションを行う。
製薬用水設備のバリデーションでは、設備メーカーが設計した設計仕様とユーザー要求、GMP適合性を検証するDQ(Design Qualification)を実施し、装置を製作する。
その後、工場に搬入/据付を行い、現地の配管施工や電気工事などを実施しIQ(Installation Qualification)として据付状態を確認する。
その後、実際の造水を行い各種パラメーターのチューニングを実施し、OQ(Operational Qualification)では自動運転の検証や造水能力、熱水循環の温度確認、滅菌機能の確認などを行い、ユーザーであるメーカーに引き渡される。
メーカーでは受け取った製造用水設備の運転管理プログラム検討しながらPQ(Performance Qualification)としてGMPソフトを含めた形で運転管理、水質管理手法の評価が行われる。
新たに製造所を建設する場合は、生産設備の立ち上げに製薬用水が必要なので、その点を考慮してバリデーションのスケジュールを組み、早い段階で製薬用水設備を立ち上げる必要がある。
製薬用水設備が立ち上がり、規格に見合った水質を確保できたら、次は恒常的に水質を維持するための管理方法を確立する必要がある。
製薬用水は非常に劣化しやすいので、定期的に滅菌や殺菌を行うことで系内を清浄に保ち、要求されている水質の製薬用水が製造されていることを監視(モニタリング)する、水質管理プログラムが不可欠である。
バリデーションでは、水質を維持するための適切な滅菌・殺菌頻度や、モニタリングの仕方(サンプリング方法や計器類の箇所等)など、管理の妥当性を示せるようなデータを取得しておく必要がある。