医薬品製造に関わる基礎知識をまとめて紹介します。GMPとは!?医薬品をつくる工程で大切なことをまとめました。
医薬品製造において必ず守らなければならない管理基準であるGMPはなぜ必要なのか。
体に強く作用する医薬品は、危険な毒と紙一重である。医薬品は命を救うことができる反面、使用方法を間違えれば、命を落とす毒にもなる。
このため医薬品の製造では、安心して使用できて期待される薬効が確実に得られるような、徹底した安全性、有効性、品質の管理が求められる。
人はミスをしやすい特性を持つため、医薬品製造業界ではGood Manufacturing Practice(GMP)を遵守することが非常に重要である。
【人がミスをしやすい特性を持つ理由】
個人の違い | 人は個々に異なる能力、経験、学習スタイルを持っている。そのため、一部の人は他の人よりもミスをしやすい場合がある。 |
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認知的な特性 | 認知的な特性には、注意力の差、情報処理能力の違い、記憶の限界などが含まれる。これらの要素は、ミスを犯す可能性に影響を与えることがある。 |
ストレスへの耐性 | ストレスへの耐性やストレス管理能力の違いは、人がミスをしやすいかどうかに影響を与える可能性がある。高いストレスレベルは、ミスを誘発することがある。特に医薬品製造のような繊細な作業や、厳しい期限が設定された作業では、ストレスがミスを引き起こす可能性が高くなる。 |
自己認識と自己管理 | 自己認識や自己管理能力が低い人は、自分の行動や判断を適切にコントロールできない可能性がある。これにより、ミスを犯す可能性が高まる。 |
過度の自信 | 過度の自信は、人がミスを犯す可能性を高めることがある。自己評価が過剰である場合、人は自分の能力や判断を過信し、慎重さや注意深さを欠いてしまうことがある。 |
人間の限られた能力 | 人間は完璧ではなく、限られた能力しか持たない。注意散漫や疲労、記憶の限界など、人間の生理学的な特性によって間違いや錯覚が起こりやすくなる。 |
このような人の特性から起きるヒューマンエラーを防ぎ、誰がいつ作業しても必ず同じ高い品質の医薬品が製造できるよう医薬品製造所が守るべき法的要件として定められたのがGMPである。
次に、医薬品製造におけるヒューマンエラーの一般的な原因を示す。
【ヒューマンエラーの一般的な原因】
無知、経験不足、不慣れ、不適切なトレーニング | 新人や未経験者がよく犯すエラーである。業務について知識が不足しているため、誤った判断をすることがある。また、従業員が適切なトレーニングや教育を受けていない場合、製造プロセスや手順を理解していない可能性がある。エラーを減らすために、業務を繰り返し学習する必要がある。 |
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過信や自己過信、危険軽視、慣れ | 従業員が自分の能力や判断を過信し、手順を省略したり、適切なチェックを怠ったりすることは、エラーの原因となる。また、慣れてくると注意力が低下し、危険を軽視する傾向がある。新人もベテランも注意が必要である。 |
作業環境の問題 | 清潔で整頓されていない作業環境、不適切な照明、騒音などの要因は、作業効率を低下させ、エラーを引き起こす可能性がある。 |
不注意・疲労 | 人は疲れたり気を抜いたりすることで、不注意によるエラーを起こすことがある。長時間の勤務や高い作業負荷、ストレスのある環境下での作業は、従業員の注意力や集中力を低下させる。適切な休息を取ることが重要である。 |
人間の特性や行動、錯覚 | 人間の性格や性質、行動パターンによって、エラーが発生する可能性が異なる。正しい情報を勘違いすることでエラーが起きる。状況を見誤ったり、指示を誤認したりすることがある。 |
単調な作業による意識低下 | 単調な作業では注意力が散漫になり、エラーが発生しやすくなる。 |
手順書や作業指示の不備 | 不適切な手順書や作業指示、曖昧な記述は、従業員が誤った行動を取る可能性を高める。 |
連絡不足 | コミュニケーションエラーが原因で、複数の人々が関与する業務で発生する。適切な情報の共有やコミュニケーションの不足は、従業員間の誤解や混乱を招き、エラーの原因となる。文書による指示や報告が必要である。 |
文化や組織の影響 | 組織文化やリーダーシップの問題、階層構造や上下関係の不適切な構造は、エラーが発生しやすい環境を作り出す可能性がある。 |
ヒューマンエラーを最小限に抑えるために次のような対策がある。
【ヒューマンエラーの対策】
標準的な作業手順の確立 | 作業手順を文書で明確に指定し、従業員がそれに従うようにする。重要な工程ではダブルチェックを実施するなど、確認プロセスを組み込むことが有効である。 |
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手順書や作業指示の改善 | 手順書や作業指示書の明確な記述と視覚的な表現を行い、従業員が正確に作業を実行できるようにする。また、作業のシンプル化や手順の最適化を行い、誤りを最小限に抑える。 |
適切な教育とトレーニング | 従業員に適切な教育とトレーニングを提供し、製造プロセスや手順、品質管理規定などについて正確に理解させる。トレーニングプログラムは定期的に行い、従業員のスキルと知識を向上させる。新人や未経験者には特に丁寧な指導が必要である。 |
チェックリストや二重確認 | 重要な作業や手順において、チェックリストや二重確認を導入する。これにより、従業員が作業の途中で重要なステップを見落とすことを防ぎ、エラーを発見する機会を増やす。 |
記録を残す | すべての作業手順や基準を文書化し、そのとおりに作業を行い、記録する。後で振り返ったとき、証拠(記録)を残すことで信頼性が高まる。 |
エラー報告と学習 | 発生したエラーや異常を積極的に報告し、その原因を分析し改善策を立案する。組織全体でのエラーの共有と学習を通じて、同様のエラーの再発を防ぐ。 |
疲労管理 | 長時間の労働や疲労はエラーを引き起こす原因となる。適切な休息と労働時間の制限を設ける。 |
コミュニケーションの改善 | チーム内での連絡不足や誤った情報伝達を防ぐために、適切なコミュニケーションの取り決めを確立する。 |
人間工学的な設計 | 作業場や設備のレイアウト、操作インターフェースの設計などに人間工学の原則を適用し、作業者の負担を軽減し、ヒューマンエラーを減らすための環境を整える。人々の認知能力や心理的な特性を理解し、作業プロセスに適切に組み込む。 |
ヒューマンファクターの考慮 | 人間の認知能力や行動パターンを考慮し、作業環境や手順の設計に反映させる。作業負荷を適切に分散し、従業員のミスを最小限に抑えるための配慮を行う。 |
リスク評価と管理 | 潜在的なリスクを特定し、そのリスクに対する対策を立案する。リスク評価を定期的に実施し、適切なリスク管理策を導入することで、ヒューマンエラーの可能性を低減する。 |
ヒューマンエラーを最小限に抑えることは、医薬品製造業界における品質と安全性の確保に重要な役割を果たす。
【ヒューマンエラーを最小限に抑えるメリット】
品質の向上 | ヒューマンエラーを減らすことで、製品の品質が向上する。正確な製造プロセスと手順の実行により、製品の一貫性や安定性が確保される。 |
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安全性の確保 | ヒューマンエラーが減少することで、製品の安全性が向上する。誤った操作や手順の実行が減ることで、製品の有害な副作用や事故のリスクが低減する。 |
コスト削減 | ヒューマンエラーによる不良品の発生やリコールなどの問題が減少することで、製造コストが削減される。また、手順の再訓練や品質問題の解決にかかるコストも低減される。 |
生産性の向上 | ヒューマンエラーが減少することで、生産プロセスの効率が向上し、生産性が向上する。作業者が正確に作業を実行することで、生産量や製品の出荷スピードが向上する。 |
信頼性の確保 | ヒューマンエラーが減少することで、製品やブランドの信頼性が向上する。品質や安全性に関する問題が少ない製品は、顧客や規制当局からの信頼を得やすくなる。 |
法規制への適合 | 製造プロセスや手順の厳密な遵守により、法規制への適合が確保される。品質管理規定や安全基準に準拠することで、規制当局の監督や規制要件への適合が容易になる。 |
このように人為的な誤りを最小限にすることは、会社や自らを守ることに繋がる。