データインテグリティ(Data Integrity:DI)は、「データ完全性」とも呼ばれ、米国食品医薬品局(FDA)ではデータが完全で一貫性があり正確であることと定義している。
例えば、良い試験データだけを残し、不適な試験データを削除する等のデータの不正防止または不正を疑われるような行為の防止が、データインテグリティの本質である。
データインテグリティは新たな要求事項ではなく、従来の各要求事項の中で、データの完全性、正確性に対するリスクを再確認し、適切なデータ管理システムの構築を求めるものだと考えられる。
データ改ざん、データ偽装などデータをめぐる不適切な行為が世界的に発生している。
製薬業界においても同様な問題を抱え、米国食品医薬品局(FDA)よりデータインテグリティに関する指摘をした警告書 (Warning Letter)の発出数は増加し続けている。
医薬品の品質、そして安全性、有効性の根拠となるデータの完全性と正確性を保証できないならば、企業の品質システムは不十分であることになってしまい、品質問題を引き起こし、大きなダメージを受けることになる可能性がある。
医薬品製造においては、データインテグリティの要件であるALCOA原則を守らなければならない。
原則 | 内容 | 紙の記録 | 電子記録 |
---|---|---|---|
Attributable : 帰属性 | 記録が帰属でき、責任の所在が明確であること | 作業者によるサイン | ログイン(ID/パスワード)、電子署名 |
Legible : 判読性 | 全ての記録は判読可能で、各ステップの記録が理解できること | 黒や青色の消えないインクを使用 | オーディットトレイルによる変更履歴の収集、作業者によるデータ削除の禁止 |
Contemporaneous : 同時性 | 記録は観察、作業した時点で記録されていること | 作業した都度、製造記録に記入 | 収集したデータの強制的な保存 |
Original : 原本性 | 最初に記録した原本か、原本の内容と意味を維持した真のコピーであること | GMP記録、ログブック | 全てのGMPデータ、オーディットトレイルの記録 |
Accurate : 正確性 | 記録が正確で真実に基づくものであり、信頼できること | GMP作業中に観察した実際の条件(誰が、何を、いつ、どのように) | GMP作業中に観察した実際の条件(誰が、何を、いつ、どのように) |
また、上記の5項目にComplete(完璧性)、Consistent(一貫性)、Enduring(永続性)、Available(可用性)が追加された「ALCOAプラス」がデータインテグリティの原則として説明されることもある。
データインテグリティが守られているか否かを判断するにはどうすればよいか。
大きく分けて、SOP(標準作業手順書:Standard Operating Procedures)による「手順管理」とデジタル技術を活用して管理する「技術管理」の2つの管理手法がある。
「手順管理」の場合、SOPが存在(用意)しており、それに対するトレーニングがメンバーに施され、かつ厳密に監視されている状態で、SOPに従って行動がなされていることを記録し、従ったことを確認する必要がある。
「技術管理」の場合、トレーニングがメンバーに施され、かつ厳密に監視されている状態では、変わりが無い。
求められる主な「技術管理」の内容を次に示す。
・記録の保護:データを削除、偽装、損失から守る
・アクセス管理:適切なユーザーが適切に情報にアクセスする
・監査証跡:作成されたファイルの変更や実行に対するすべてを記録する
・電子署名:署名者、日時、理由を消去できない方法で記録する
・レポート機能:生データと分析結果を正しく保管する
データインテグリティの対応の基本としては、ALCOAの原則を守ることであり、データの取り扱い方を決めて、それを扱うためのシステムを導入するということである。