設備はいつも正常に稼働するとは限らない。このため、非常時への対応にも十分配慮することが必要である。
人為的ミスによる異常や、短時間の停電そして自然災害は、常に起こり得るリスクである。もし、それらのリスクに対し設備が脆弱ならば、たびたび製造が停止するというトラブルに見舞われる。
生産活動は安定せず、必要な医薬品を患者さんに届けられない事態にもつながる。堅牢さは、設備構築に求められる重要な課題である。
2011年3月の東日本大震災では、想定外といわれる被害がもたらされ、われわれが改めて設備の堅牢さを考える機会にもなった。
この震災は、直接被害もさることながら、計画停電、断水、部品・資機材サプライチェーン分断の結果、自動車産業をはじめとして、全国規模で企業が操業停止、減産に追い込まれ、4月の鉱工業生産指数は前月の15%もダウンし、これはリーマンショック時の日本経済に対する影響をはるかに上回るものだった。
今後30年間の発生確率が87%と予測されている東海地震、東南海地震、南海地震のみならず、企業にはあらゆる災害の発生を想定し、従業員や地域の安全を守るための防災対策に加えて、設備の被災、社会インフラの切断による業務停止のダメージを最小限とし、いかに事業を継続するかのシナリオとなる事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)を早急に策定することが期待される。
医薬品製造設備に関わるエンジニアは、災害に対するリスクマネジメント(災害予防)の観点を設備構築に取り入れ、BCPを策定し実行する役割の一部を担う必要がある。
リスクマネジメントとは、リスクの最小化を目的とし、リスクの特定、原因分析と評価、対策立案(回避、低減、移転、保有)、対策実行、結果のレビューおよびフィードバックを行い、一連のPDCAをまわすプロセスである。
以下に災害のリスクマネジメントに対するアプローチを示す。
(1)災害対応の機能展開
設備構築の目的を設定し、その達成に必要な機能をトップダウンで展開し、その機能を災害時にも保証するために、リスク回避、軽減のための必要条件をリストアップし、設計コンセプトを策定することが設備構築の出発点となる。
(2)リスク分析の手法
ISO9000では、設計の過程で設計レビューを実施することが規定されているが、設計レビューにおいては、災害に対するシステムの脆弱さについても分析、検証(安全評価)をし、その対策を盛り込むことで設計の信頼性を高めていくことが必要である。
代表的な分析方法は以下の通りである。
@FTA(Fault Tree Analysis:フォルトツリー解析)
AETA(Event Tree Analysis:イベントツリー解析)
BFMEA(Failure Mode Effect Analysis:故障モード影響解析)
CHAZOP(Hazard and Operability Studies)
ハード設備の潜在リスクの特定には、FMEA、HAZOPが適し、災害伝播による最終災害発生に至るシナリオの解析には、ETA、FTAが適している。
(3)リスクマネジメントの遂行体制
いずれの手法を適用するにしても、設計、建設、運転等の経験が豊富であり、過去のトラブル(失敗事例)を熟知しているSME(Subject Matter Expert)を関係する各分野から招集し、リスクマネジメント遂行体制に組み入れることが望ましい。その効果として、災害対策に対する組織横断的プラットフォームが構築できることが期待できる。