医薬品の製造過程は、“汚染”の危険と隣り合わせである。
だからといって、完全な密閉間、または無人の状態で医薬品の製造を行うことは不可能である。そこで製造中、製品を守るのが空調設備である。
空調設備は、医薬品の品質を保持し、安定供給を担保し、かつ製造環境の塵埃、微生物をいかに効率よく排除する役割を持つ。
空調設備の役割は、GMP三原則の中では「汚染防止および品質低下防止する」という点にあたり、GMPの管理対象となる。
また、製品の品質に大きな影響を及ぼす製造支援設備である。
一口に“汚染”といっても、その原因は次例のように一通りではない。
・本来医薬品に含まれるべきではない異物の汚染
・空気中に浮遊する塵埃
・装置や容器が破損した欠片の混入
・作業者の毛髪や皮膚または虫といった生物由来の異物
・別の製品や原材料が混入してしまう交叉汚染
・微生物による汚染(注射剤のような無菌医薬品では、深刻な健康被害を引き起こすおそれがある)
空調設備によって清浄環境の空気を清浄化し気流を保つことで、このような汚染はある程度防ぐことができる。
空調設備の設計では、製品や製造工程のリスクを考慮し、各エリアに対して適切な能力を確保する必要がある。
空調設備とは、建築物内部の人や物に対し適切な環境を与えるために、温度、湿度、空気清浄度、気流などをコントロールするシステム全体を指す。
具体的には、ブロア(遠心式送風機の一種)等の送風機で空気の流れを作り、ダクト(気体を運ぶ配管)を通して建設内部の空気と外部の空気を交換(換気)しながら、建物内の環境をコントロールする設備である。
医薬品製造所では、医薬品の品質を守るために適切な“清浄度”、“温度”、“湿度”を達成することが求められる。
室内の温度・湿度は、クリーンルームにおける清浄度・空間差圧と同様に大変重要な要素である。
その条件は、以下に示す3つの事項によって決まる。
@製品の品質確保のため
製品の膨張・収縮・乾燥・湿潤による変質の防止が目的となる。
A人間(作業者)のため
作業性の向上・発汗防止が目的となる。
B製造機械のため
製造機械の膨張・収縮・静電気の防止が目的となる。
また、室内温度・湿度条件の許容範囲を明確にすることも重要である。
すなわち、設計値、許容値、アラートレベル、アクションレベルを明確にしておく必要がある。
【アクションレベルの例】
設計値 | 問題ない |
---|---|
許容値 | 運営に問題ない |
アラートレベル | 直ちに運営に問題はないが、原因の究明・改善が必要である |
アクションレベル | 運営に影響、運営を中止する |
特に「許容レベル」と「アラームレベル」の設定が重要であり、非常に難しい。
クリーンルームでは、室内の空気が排気され、エアフィルタを通し塵埃を除去した清浄な空気が供給される。
特に、清浄度が高いクリーンルームには、HEPAフィルタと呼ばれる高性能のエアフィルタが使用される。
無菌操作法指針には、HEPAフィルター(高性能フィルター)について「一定の大きさの微粒子を一定の効率で除去することを目的に設計された微粒子捕捉フィルターをいい、粒径0.3μm以上の微粒子を少なくとも99.97%の効率で捕捉する空気用フィルターをいう」と定義されている。
クリーンルーム内に浮遊する塵埃は室内の空気の置換(換気)によって外部に排出される。
単位時間における空気の置換量は、部屋の空気が何度入れ替わったかを示す換気回数に換算され、空調設備能力のパラメータのひとつとされている。
換気回数が多いほど、速やかに塵埃が排出されるので、必要な清浄度を達成する時間も速い。