医薬品の連続生産とは、原料を粒に加工したり、乾燥したりする一つ一つの工程を切れ目なく行う製造方法である。
人の作業を極限まで排除し、リアルタイムで品質管理を行いながら連続的に製剤を製造する。
従来の「バッチ生産」に比べて、高品質な製品の大量生産や工場の省スペース化などが期待できる。
工程ごとに生産物を機械から取り出して別の機械に移すのが一般的だが、連続生産専用の機械を使えばその必要がなく、手間やミスを減らせる。
連続生産のメリットは、次のような点がある。
@単独の単位操作が少ない統合された製造工程が実現できることで、製造ステップのスタート/ストップ時に起こりうる人的エラーを減らすことができる。
A設備の省スペース化が実現できることで、製造サイトの設置・移動も容易になる。
Bより進んだ開発手法(PATを組み込んだQbD)を用いることで、より信頼性の高い品質の医薬品を製造できる。
C需要に応じ製造のスケールアップ・スケールダウンが可能となり、製造・保管コストの削減が期待できる。
デメリットは、企業にとって導入のハードルが高いことである。
機械の中で流れ続ける生産物を特殊な装置で検査し、得られたデータを読み解く高度な品質管理が求められる。
多額の設備投資もネックになる。
【既存のバッチ製造との連続生産の相違点】
項目 | 既存のバッチ製造 | 連続生産 |
---|---|---|
原材料の投入/生産物の回収 | 原材料を全量(又は分割)を非連続的に工程へ投入。操作が完了後、生産物の取り出し | 一定量の原材料を連続的に工程に投入し、一定時間後に順次、生産物の取り出し |
各製造工程 | 単位操作ごとにスタート/ストップ、作業員の介入 | 単位工程を連結し、作業員の介入なしに次工程へ移行 |
品質管理 | 工程パラメータ管理、工程管理試験(In line、On line、At line試験)、Realtime Release testing、規格試験 | 左記に加えて、In line試験結果に基づく、一定時間内の不良製品の排除等 |
スケールアップ | 開発中及びバリデーションでは、スケールごとに検証作業が必要になる | 事実上不要となるケースもあり、開発時の機器を実生産スケールと合わせることで、速やかな実生産化が可能である |
生産施設面積 | 広い | 狭い |
ただし、現状では全工程の連結化には課題が多く、当面は一部製造工程を連結した製造工程を有する、バッチ製造と連続生産のハイブリット型が想定される。
連続生産は、すでに石油や食品分野で用いられている生産方法であるものの、医薬品分野ではこれまでバッチ製造が基本とされ、連続生産は取り込まれてこなかった。
製剤開発は、国からの承認を取らなければいけないので、実績のある既存技術が好まれがちで、製造方法の技術革新は起きにくいと考えられてきた。
過去には2003年の米国ウォールストリート・ジャーナルで「医薬品の製造技術はポテトチップスや洗剤のそれよりも劣る」と報じられたこともある。
しかし、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が連続生産の導入をサポート。米国で2015年、連続生産で製造された医薬品をFDA(食品医薬品局)が初めて承認した。
【連続生産への期待項目】
○高精度なモニタリング技術(PAT等)との組み合わせで、品質不良を早い段階で防ぐことが可能→欠品リスクの回避にも繋がる
○スケールアップの問題を回避→開発期間の短縮にも繋がる(治験薬製造時から導入可能)
○少量・多種の製造にも適している→ジェネリック医薬品、個別化医療への適用も期待
○需要量に応じた柔軟な生産量管理→製造・保管等のコスト軽減が期待
○製造所の変更(製造機器の移動)が可能→自然災害時等にも、代替の製造所の確保が容易
国内でも、医薬品の製造に「連続生産」を導入する動きが本格化してきている。
コストと時間の削減や品質保証の信頼性向上などがメリットで、日本イーライリリーの抗がん剤「ベージニオ」など3製品が連続生産で承認を取得した。
2020年12月には、塩野義製薬が抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」を連続生産で製造するための申請を行い、国から承認を得た。
連続生産による医薬品の開発・製造は今後ますます加速すると予想される。
連続生産に対応できないと、将来的に注文が来なくなると言われている。
研究者や技術者を育てることも重要。5年先、10年先を見越した投資が必要になっている。
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)では、医薬品の連続製造の国内規制の関連情報を整理、掲載している。
・PMDAが実施した学会等での講演スライド
・行政文書等