医薬品製造の基礎知識

薬価制度改革とは!?

薬価制度改革の背景

 

医薬品製造

 

 厚生労働省は、ドラッグロス等への対応やプログラム医療機器の実用化促進に向けた薬事上の措置を検討し、2024年末までに結論を得るとともに、承認審査・相談体制の強化等を推進している。

 

 2025年度薬価改定に関しては、イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する。

 

 薬価制度改革の背景には、主に「イノベーションの評価、ドラッグ・ラス/ドラッグ・ロスの解消」「医薬品の安定供給の確保」の2つの問題がある。

 

 

 

@イノベーションの評価、ドラッグ・ラス/ドラッグ・ロスの解消

 

 近年、医薬品産業を取り巻く環境の変化に伴い、ドラッグ・ロスの発生や安定供給の懸念など、様々な問題が生じていることが指摘されている。

 

 特に、海外で承認されている医薬品が日本では開発に着手すらされない、「ドラッグ・ロス」が拡大しているとの指摘がある。

 

 この原因としては、日本の医薬品市場の魅力低下や創薬環境・薬事制度の違い等があると考えられ、複数の要因が複合的に関わっている。

 

 こうした問題意識の下、日本の医療水準の維持及び向上のために必要な「革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市」、「医薬品の安定供給」を確保する観点から、現状の課題を踏まえ、流通や薬価制度、産業構造の検証などの幅広い議論を行い、必要な見直しを検討する。

 

 

 

A医薬品の安定供給の確保

 

 政府の累次の使用促進策、医療保険者、医療機関・薬局等関係者の協力もあって、後発医薬品は今や取引数量では医薬品全体の約半数を占め、後発医薬品がある医薬品における使用数量では約8割と、国民の健康・生命を守る医療の重要な基盤として成長した。

 

 しかしながら、2021(令和3)年の後発医薬品企業に係る行政処分に端を発する一連の供給不安は、その医療の基盤である後発医薬品産業が、品質や安定供給の観点から未だ脆弱性を抱えていることを明らかにした。

 

 市場が大きく拡大する中で、必ずしも十分な製造能力や体制を確保できない多くの企業が新規品目を上市することや、十分な製造管理も行われない中で少量多品目生産が行われるといった後発品産業の産業構造上の課題がある。

 

 今後、これまでのような大きな市場拡大が見込めない中にあっても、後発品の安定供給を確保するためには、このような産業構造のあり方そのものを見直していくことが必要として、後発医薬品産業の在るべき姿やその実現のための具体策を検討する。

 

 

主な改革事項

 

 主な改革事項を次に示す。

 

 

 

@イノベーションの評価、ドラッグ・ラス/ドラッグ・ロスの解消

 

 ・革新的新薬の特許期間中の薬価維持(新薬創出等加算の見直し)

 

 ・日本に迅速導入された新薬の評価(加算新設)

 

 ・小児用医薬品の開発促進
 (成人と同時開発する小児適応の評価、収載時・改定時の加算充実等)

 

 ・革新的新薬の有用性評価等の充実(収載時・改定時の加算充実等)

 

 ・市場拡大再算定の見直し(一部領域における類似品の適用除外)

 

 

 

 

A医薬品の安定供給の確保

 

 ・安定供給が確保できる後発品企業の評価
 (安定供給に係る企業指標に基づく評価等)

 

 ・薬価を維持する「基礎的医薬品」の対象拡大
 (薬価収載からの期間:25年以上→15年以上)

 

 ・不採算品再算定の特例的な適用
 (乖離率が一定水準(7.0%)以下の品目が対象)

 

 

中央社会保険医療協議会薬価専門部会の参考資料

 

 中央社会保険医療協議会は、厚生労働大臣の公的諮問機関である。

 

 医療保険の診療報酬額の算定、療養担当規則の改定について大臣の諮問を受けて審議答申し、また建議する。

 

 その中でも、薬価専門部会は、医薬品の価格(薬価)を審議・決定するための部会である。

 

 この部会は、薬価制度に関連する重要な事項や医薬品価格の改定について議論し、最終的には厚生労働大臣に意見を提出する。

 

 薬価専門部会では、医薬品の価格が適切かどうか、医療保険財政への影響、医療の質の向上に貢献できるかなど、様々な観点から審議される。

 

 次に「薬価制度改革」に関する参考資料を示す。

 

 ●中央社会保険医療協議会薬価専門部会の審議資料一覧

 

 医薬品製造

 

●令和6年度薬価制度改革の概要|YouTube

 

 

イノベーションの評価、ドラッグ・ラス/ドラッグ・ロス解消の検討

 

 「イノベーションの評価、ドラッグ・ラス/ドラッグ・ロスの解消」については、次のような事項を検討している。

 

 医薬品製造

 

 


<希少疾病用医薬品の指定のあり方>

 

@ 「輪切り」の要件の明確化

 

 いわゆる「輪切り申請」は、特定の疾患の患者数に関して、医学薬学上の明確な理由なしに、「重篤な」等の接頭語あるいは、ただし書きを追加することによって、患者数を5万人未満として計算することとされており、希少疾病用医薬品制度においては認められていない。

 

 この解釈が厳格に運用され、本来、開発支援の対象となるべき疾患領域であるにも関わらず、指定対象から外れている場合があるとの指摘がある。

 

 例えば、作用の強い生物学的製剤であり、軽症の患者には使用されることが想定されないため、重症の患者に限定して開発を進める場合や、対象疾患の患者数は5万人以上であるものの、医薬品による治療が必要となる患者数は5万人未満であると推定される場合であっても、「輪切り」に該当するとされる場合があった。

 

 このような開発の進め方は、創薬開発においては必ずしも不適切なものではないと考えられる。

 

 また、仮に将来的にさらなる適応拡大が想定される場合であっても、まず直近の開発対象への開発が行われなければ将来的な拡大もされないことから、希少疾病用医薬品としての該当性は、企業が開発対象とする最小単位に対して検討する必要があると考えられる。

 

 このため、例えば、年齢層(小児を含む)、治療ライン、リスク分類、投薬の必要性等を含め、医学薬学上の検討に基づき、高いアンメットニーズがありつつも開発が進んでいない範囲に限定した対象疾患に対して製造販売をしようとするのであれば、当該疾患については「輪切り」には該当しないことを明確化すべきとした。

 

 ただし、疾患全体の患者数が5万人を大幅に超える場合などは、推計は複数の根拠に基づき慎重に確認し、最大数を採用するなど保守的に行うものとした。

 

A 医療上の必要性の要件の明確化

 

 指定要件の一つである「代替する適切な医薬品等又は治療方法がないこと」の範囲が不明瞭であるため、既承認薬があれば、その効果の程度によらず代替する適切な医薬品があると判断される場合がある。

 

 例えば、生命予後に重大な影響のある疾患であって、承認されている医薬品では必ずしも十分に奏効が認められない場合であって、当該疾患に対する新規作用機序の医薬品の開発を行おうとする場合などにおいても、代替する医薬品がある場合に該当すると考えられてきた。

 

 この点について、既承認薬が全くない場合のみではなく、既承認薬による治療法がいずれも予後不良の場合など、充足性に応じて複数の治療選択肢が必要とされている場合も要件に該当することが確認された。

 

 医療環境・投与環境から既承認薬の投与が困難である患者が一定数存在する場合も、要件に該当する場合があると確認された。

 

 また、既承認薬による治療法の充足性が低い場合には、当該疾患に対する新規作用機序であることや、非臨床データ等に基づき有用性が期待できることをもって、要件に該当する場合があるとされた。また、必ずしも日本人のデータは指定に必要ないことも確認された。

 

 また、指定要件のうち「既存の医薬品等と比較して、著しく高い有効性又は安全性」の範囲が不明瞭であるため、既承認薬と直接比較した臨床試験の結果が求められる場合があった。

 

 例えば、海外のガイドラインにおいては国内既承認薬は第二選択、候補薬は第一選択である場合も、それらを直接比較した臨床試験の結果が必要とされる場合があった。

 

 また、既承認薬はある特定の副作用に係る警告がなされており、候補薬の既承認の効能ではそのような警告がない場合に、候補薬について適応追加しようとする場合も、著しく高い安全性があるとは認められない場合があった。

 

 この点について、国際的に認められているガイドラインで治療選択肢の優先順位が高く位置づけられている場合には、要件に該当する場合があること、対照薬と直接比較した臨床試験の結果のみではなく、論文等の異なる試験の結果から著しく高い有効性等が期待される場合には、要件に該当する場合があること、また、添付文書上の注意喚起の程度が明らかに異なる(例えば、既承認の適応での警告欄における記載が異なる)場合や、安全性プロファイルが明らかに異なる場合など、安全性において優れている蓋然性が高い場合には、要件に該当することが確認された。

 

B 指定の早期化と取り消し要件の明確化

 

 指定要件のうち、開発の可能性に係る要件として「その開発に係る計画が妥当であると認められること」の範囲が不明瞭であるため、第U相試験が完了し、第V相試験の計画が医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)と合意している、第V相試験の結果が得られている、といった開発段階であることを求められる場合があった。

 

 しかしながら、特にベンチャー企業では、希少疾病用医薬品に指定されていることをもって、投資を呼び込み、日本の臨床開発に着手可能となる場合があるため、臨床開発の後期にならなければ指定を受けられない場合、日本への開発を断念する場合がある。

 

 薬機法第77条の2の指定対象の要件においては、開発の可能性については必ずしも明示されていないことも踏まえ、開発の可能性については、国内での開発を行うことのできる体制及び計画を有しているかどうかを確認することとされた。

 

 具体的には、承認申請に至るまでに実施する予定の臨床試験(プロトコールは不要であり、試験計画の概観が把握できればよい)を示すとともに、少なくとも第T相試験を実施するために必要な非臨床試験については概ね完了している程度の段階であれば、要件を満たすとされた。

 

 指定の早期化に伴い、開発の進捗に伴い指定要件を満たさなくなった場合には、指定取り消しとなる取扱を明確化することとされた。具体的には、次のような場合であって、指定要件を満たさなくなると考えられる場合に、事前に指定を受けた者の意見を聴取した上で、取り消しを行うことが想定される。

 

・臨床的位置付けが同様で、代替薬となり得る医薬品が承認された場合

 

・臨床試験で達成基準を満たさなかった場合

 

・安全性を根拠に指定された場合であって、開発の進展に伴い指定の根拠とした安全性上の優位性を確保できなくなった場合

 

C オーファン指定要件の見直しに伴う優遇措置等の取扱いについて

 

 PMDA の審査期間の目標値は、優先審査で9か月、通常審査で 12 か月であるところ、令和3年度の実績はそれぞれ8.5 か月、11.7 か月であるが、リソースに余裕はなく、優先審査品目の増加に対応するためにはさらなる体制強化が必須である。

 

 このため、PMDAの体制強化を並行して検討することとし、それが実現するまでの間は優先審査の対象品目については、従来の優先審査の要件を満たすものの範囲とすることとされた。

 

 新医薬品の承認は、薬事・食品衛生審議会(現薬事審議会)における審議後、事務手続を経て厚生労働大臣が承認することにより行われている。

 

 新規医薬品については、年8回(1,2,4,5,7,8,10,11 月)程度審議会を開催しているが、承認は年4回(3,6,9,12 月)のみ行っているため、審議会から承認まで2か月程度の期間を要する場合がある。

 

 この点について、いずれの品目についても、審議会開催後、速やかに承認することとし、審議会から承認までの期間の短縮を図ることとされた。

 

 これにより、PMDAの実質的審査に充てられる時間を確保し、希少疾病用医薬品の優先審査にも対応しやすくなることが期待される。

<小児用医薬品の開発促進に資する薬事審査等のあり方>

 

 欧米同様に小児用医薬品の開発を義務付けるべきではないかという意見がある一方、義務化することで成人を含めて我が国での医薬品開発が滞る可能性も考えられる。

 

 義務化されている欧米においても、実際には、免除や猶予の規定があり、その適用を求めて企業と審査当局との間で多くの折衝が行われており、また、小児剤形について同時開発は必ずしも達成できていない、という意見もある。

 

 このため、新有効成分、新効能の医薬品については、成人用の開発時に、企業判断で小児用の開発計画を策定し、PMDAが確認する仕組みを設ける必要があることとした。

 

 この際、必ずしも成人と小児において適応症が同一とは限らず、例えば、がんを対象とした分子標的薬の場合、成人と小児でがんの種類が異なっていても、その分子標的または作用機序に共通性があれば、確認の対象となり得るとした。

 

 また、企業による開発計画策定を促すインセンティブについても別途検討が必要とした。既承認医薬品については、特定用途医薬品指定制度を引き続き活用しつつ、更なる活用に向けた制度のあり方を検討することとした。

 

 さらに、小児用の開発の優先度については、企業の判断によるほか、専門学会等の要望や評価を踏まえ、優先度に関する検討を行い、結果を公表することにより、企業の開発計画に示唆を与え、優先度の高い品目の開発に関して産官学で協力がしやすくなることが期待される。

 

 また、小児用医薬品の開発にはコストを要するものの、成人に比べて市場規模は小さく、コストの回収が困難である。開発コストの低減に資するため、国内で小児の治験を実施することなく承認申請可能なケースを整理し、明確化すべきと考えられた。

 

 このため、以下のような取組により、小児の治験実施の要否に関する考え方を整理し、明確化すべきとした。

 

・国際的に用いられているモデリング&シミュレーション(M&S)の活用や、海外データ、文献情報等により有効性・安全性が説明できる場合を整理し、明確化する。

 

・新有効成分や新効能医薬品については、少なくとも 10-12 歳以上の小児においては、一定の条件を満たせば、成人の承認申請時に併せて評価可能な場合があること(「成人と合わせて評価可能な小児(10歳又は12歳以上の小児)の臨床評価の留意点について」( 令和2年6月 30 日厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課事務連絡))を周知する。

 

 上記に関する相談への対応を含め、PMDAに小児用医薬品に特化した相談枠を新設すべきとされた。

 

 加えて、企業が小児に特化した剤形を開発した場合でも、対象患者数が少ない等により医療機関や薬局が当該剤形を採用せず、実際の利用が進まないという指摘があることから、小児剤形を利用しやすくなる仕組みを検討すべきこととした。

 <我が国の承認審査における日本人データの必要性の整理>

 

 国際共同治験開始前の日本人での第T相試験の実施に関する考え方については、平成19年通知のQA3を削除し、平成26年事務連絡を廃止するなど過去の通知等を適宜整備した上で、現時点の考え方を改めて通知すべきこととした。

 

 新たな通知においては、国際共同治験に参加する日本人被験者の安全性を確保するとともに、新たな医薬品の開発に日本が参加できなくなることによる不利益を最小化する観点から、下記アからウの事項を盛り込むべきこととした。

 

 なお、これらは海外での臨床開発が先行した場合を想定したものであり、我が国の創薬力向上の観点からは、第T相試験の段階から日本も開発計画の議論及び臨床試験に参画することが望ましいというスタンスに変わりはない。

 

 ア.基本的考え方

 

 一般に、国際共同治験開始前の第T相試験については、人種・民族や国・地域ごとに実施することが必須となるものではない。

 

 日本が国際共同治験に参加する前に利用可能なデータから日本人被験者の安全性・忍容性のリスクが説明でき許容・管理可能かを検討した上で必要と認められる場合を除き、原則として、日本人での第T相試験を追加実施する必要はない。

 

 一方、国際共同治験を実施する医療機関に対してより詳細な情報提供を行う観点及び薬物動態等の有効性に影響を及ぼす内因性民族的要因の地域間差を考慮して次相以降の国際共同治験を適切に計画立案する観点からは、例えば第T相試験を国際共同治験として実施する場合には、日本がその第T相試験から参画するなど、可能な限り日本人における薬物動態等に関する情報を収集することが望ましい。

 

 このため、個別品目ごとに、医薬品のリスクの大きさ、民族的要因の影響の受けやすさ、医薬品の医療上の必要性、国際共同治験に参加しない場合の不利益等を踏まえたリスクベースの検討に基づき判断する必要がある。

 

 イ.個別品目における判断の考え方の例

 

 オーファンドラッグに該当するような開発品目や小児用医薬品(成人開発の有無を問わない。)など、アンメットメディカルニーズが高く、日本での開発に、実施予定又は実施中の国際共同治験への参加が望ましいと考えられるものは、適切なインフォームドコンセントを得た上で、日本人第T相試験を実施せずとも国際共同治験に参加できる。

 

 その他の品目においても、非臨床データや海外で先行する臨床試験における複数の人種での結果、類薬の情報を含めた既存の知見、モデリング&シミュレーションに基づき、薬物動態や反応(安全性)が人種などの民族的要因の影響を受けやすいことが認められていない場合など、少なくとも日本人治験参加者の安全性が臨床的に許容・管理可能であると判断できる場合には、日本人第T相試験を実施せずとも国際共同治験に参加できる。

 

 一方、日本における患者数が多く、かつ、国際共同治験の実施まで日本人第T相試験を実施する時間的余裕が十分にある場合など、日本人第T相試験の実施可能性があると治験依頼者が判断した場合には、日本人第T相試験の実施を検討することが望ましい。

 

 ただし、既存の情報から日本人におけるリスクが外国人と同程度と認められる場合やヒトでの安全域が広い場合は、この限りではない。

 

 例えば抗がん剤などでみられるような、重篤な有害事象が高頻度に生じることが想定され、安全域の狭い医薬品であって、年齢層や適応によらず日本人での投与経験がない場合など安全性情報が限られている医薬品においては、日本人第T相試験の要否についてより慎重に判断する必要がある。

 

 上記のほか、治験依頼者によるリスクベースでの検討に資するため、日本人の安全性について考慮すべき要素について、これまでのPMDAの相談実績等に基づきリストアップすることとする。

 

 ウ.その他

 

 日本人第T相試験の実施の有無にかかわらず、国際共同治験において日本人のPK/PD データを収集するなどして、承認申請までの間に、PK/PD の国内外差の検討を行うことが重要である。

 

 日本人第T相試験を実施しない場合には、治験依頼者は、国際共同治験において、必要に応じて日本人に対する安全確保策を別途設定する。

 

 日本人第T相試験の必要性及び国際共同治験における安全確保策の適切性は、最終的には個別品目ごとに検討される必要があり、被験者の安全性を確保する観点からPMDAが必要と判断した場合には、治験計画届に対する調査又はそれに先立つ相談等において、PMDAが日本人第T相試験の必要性及び国際共同治験における安全確保策の変更等に係る指示又は助言を行う場合がある。

<検証的試験における日本人データの必要性の整理について>

 

 ア.基本的考え方

 

 我が国での医薬品の承認審査においては、日本が参加した国際共同治験又は国内試験の結果に基づいて、日本の医療環境下の日本人での有効性及び安全性を評価することが基本であるとする考え方に変更はない。

 

 また、国際共同治験については、日本人の組み入れ例数が極めて少数であっても、臨床的観点も踏まえた総合的かつ多角的評価により、全体集団の成績とのある程度の比較検討は可能であり、また、医療現場への情報提供等の観点からも、日本が参加する意義はあると考えられる。

 

 少数例の国内試験についても同様に一定程度の意義はあると考えられる。

 

 ただし、海外で臨床開発が先行している医薬品については、日本で新たに治験を実施することにより、さらに日本人患者の医薬品へのアクセスに時間を要する場合がある。

 

 また、追加で日本人試験が求められることにより、日本での開発を断念しているケースもある。

 

 このため、日本人での有効性・安全性を確保するとともに、治験の追加的な実施によって日本人患者の医薬品へのアクセスが遅れる不利益を最小化する観点から、日本人患者における臨床試験成績がなくとも薬事承認を行うことが適切であると考えられる場合を整理する必要がある。

 

 ただし、日本人患者における臨床試験成績がなく承認申請を行う場合であっても、承認申請と並行して治験(拡大治験を含む)を開始するなど、日本人患者の投与実績に関する情報を可能な限り収集し、審査において確認するとともに、医療現場へ情報提供することが重要である。また、製造販売後調査等の実施等で日本人患者の投与実績に関する情報が得られると判断される場合もある。

 

 イ.日本人データなしに薬事申請を行う場合に考慮すべき要素

 

 日本人患者における臨床試験成績がなくとも薬事申請を行うことが適切であると考えられる場合として、具体的には、次の@〜Bのいずれにも該当する場合が考えられる。ただし、必ずしもこれらに限られるものではない。

 

@ 海外で既に主たる評価の対象となる臨床試験が完了している

 

・中間解析において主たる評価が可能な場合は、当該中間解析が完了している場合を含む。

 

・ただし、海外で臨床試験ではなく症例報告等に基づいて既に承認されている医薬品の場合は、海外で臨床試験が完了している必要はない。

 

A 極めて患者数が少ないなどにより、日本の承認申請までに国内で追加の臨床試験を実施することが困難

 

・臨床試験の実施の困難性は、必ずしも患者数のみによって判断されるものではなく、疾患等に基づいて総合的に判断するべきものである。

 

・致死的な疾患や、急速かつ不可逆的な進行性の疾患などでは、追加の臨床試験を実施することにより承認までに時間を要する場合の患者の不利益が大きいことから、必ずしも患者数によらず国内での臨床試験の実施が困難と判断される場合がある。

 

B 得られている有効性・安全性に係る情報等から、総合的に、日本人におけるベネフィットがリスクを上回ると見込まれること

 

 なお、医薬品の構造、特性、類薬の状況等から、日本人における民族差があることが具体的に示唆され、安全性や用量の適切性について追加の情報が必要と判断される場合には、日本人における臨床試験(臨床薬理試験を含む)が必要と判断される場合がある。

<迅速な承認制度のあり方について>

 

 日本人の臨床試験の結果の提出を承認後に求める場合には、条件付き承認制度を活用することを検討する。

 

 加えて、米国で迅速承認(Accelerated approval)の対象となり承認後の検証的臨床試験の実施が求められている品目であって、日本では第U相試験の結果により通常承認されているような品目について、今後は条件付き承認制度を活用することについてどう考えるか、米国においても、多くの品目では、承認後の検証的臨床試験は、迅速承認の際に根拠とされた臨床試験とは治療ライン等が異なる被験者を対象とするものであることにも鑑み、日本においてはこれまでと同様に通常承認により対応していくことが適切であると考えられるか、について議論がなされ、必ずしも一律に条件付き承認を適用する必要はないが、品目に応じて適宜適用を検討することが重要とされた。

 

 また、「検証的臨床試験の実施が困難又は相当の時間を要する」との要件については、日本人の追加データが必要となることによって、その試験の実施が困難又は相当の時間を要する場合も該当することとする。

 

 また、致死的な疾患や、急速かつ不可逆的に進行する疾患など、臨床試験の実施により医薬品の承認が遅れることの患者への不利益の程度が大きい場合には要件に該当することとするなど、幅広く解釈できるものとする。

 

 条件付き承認において承認後に実施する検証的臨床試験の対象患者については、必ずしも条件付き承認を受けた範囲と完全に一致する必要はなく、臨床試験の実施可能性を踏まえつつ、異なる治療ラインや、異なる疾患の進行段階であっても認められる場合があるものとする。

 

 また、必ずしも日本人が含まれる必要はなく、海外で実施中又は計画されている検証的臨床試験が認められる場合があるものとする。

 

 なお、「検証的臨床試験の実施が困難又は相当の時間を要する」との要件のあり方や、承認後の取消のあり方を含めた、条件付き承認の制度的枠組みのあり方については、引き続き、法改正の要否も含め、検討を進めるべきものとする。

 

 また、市販後の評価に係るPMDAの体制強化についても、併せて検討を進めるべきものとする。

 

 加えて、条件付き承認の活用を図るため、試行的なパイロット事業として、一つの方策として、審査の過程でアカデミアや患者団体の意見を反映する仕組みについて研究を進めるべきこととされた。

 

<治験の更なる効率化(エコシステム)について >

 

@中央IRBの活用促進

 

 原則として中央 IRB による審査が望ましい点を文書化する方向性を含め、中央IRB の活用の促進に向けた検討を進めるべきであり、具体的には、医療関係者の意見も聴きつつ、厚生労働省・PMDA・製薬業界において検討を進めるべきこととした。

 

A 治験費用の算定方法の合理化

 

 治験費用の算定方法について、業務量や市場価格に基づいた算定(欧米では Fair Market Value と呼ばれ、広く浸透している概念)の国内への導入の実現性を含め、医療機関・治験依頼者双方が納得感を得られる方法について必要な検討を進めるべきこととした。

 

B 治験運用の更なる合理化

 

 例えば以下のような点について、医療機関を含む関係者の意見も聴きつつ、厚生労働省・PMDA・製薬業界において検討し、要すれば GCP 省令の改正を含め、更なる合理化に向けた取り組みを進めるべきこととした。

 

 併せてPMDAの体制強化を進めるべきものとした。

 

・IRB 審議事項の整理(通知・審議が必要な安全性情報の範囲の特定、医療機関追加の際の審議の要否、審査区分(迅速、簡易、報告)の整理等)、IRB 成立要件の検討

 

・ICF 様式の共通化とその普及

 

・治験管理(治験計画・変更届出)の効率化

 

・治験実施において厳格に実施する必要のあること、非効率となっていることの具体的事例の洗い出しと周知(モニタリングの頻度、逸脱発生時の対応・管理の基本的な考え方の例示、電子化の推進等)

 

・分散型治験等の新たな形態の治験に対応したGCPのあり方についての検討

 

 これらの検討事項については、医療関係者の意見を受動的に聞くのみではなく、医療関係者とも相互的な議論を行いながら検討を進めていくべきとされた。

 

 さらに、患者や薬害被害者等の意見をよく聴くことが重要とされた。

 

 また、指定難病の中には、患者のいる医療機関を特定することが難しく、治験の実施が困難となる場合も多いことから、薬事以外の対応を含めて、関係する部署の連携・協力により、希少疾病の治験環境を改善することが期待される。

<製造販売後に実施する使用成績調査等のあり方及びリアルワールドデータの活用のあり方について >

 

@ リサーチクエスチョンの設定と適切な対処方法の検討について

 

 リサーチクエスチョンの設定の在り方及び製造販売後調査等の計画検討時期については、引き続き製薬業界・行政間での議論を継続すべきこととした。

 

 少なくとも、単に治験の症例数が少ないことや一部の患者集団における情報が不足していることのみがリサーチクエスチョンである場合には、使用成績調査を実施する根拠となるものではないこと、これらを背景として単に特定された重大なリスクに相当する副作用の頻度調査のみを行うために使用成績調査を実施することが適切な対処方法とはならないことを明確化することとした。

 

 また、少なくとも、製造販売後調査等を実施することが再審査期間の付与の前提となるものではないことを明確化することとした。

 

 使用成績調査は、重要な特定されたリスクについて、その頻度調査を目的として行うことの意義は限られており、基本的には、重要な潜在的なリスク、重要な不足情報に関する調査を目的として行うことが想定されるものであることを明確化することとした。

 

A 製造販売後調査等の計画検討時期について

 

 製造販売後調査等の実施計画については、承認時に具体的なリサーチクエスチョンがある場合には、承認前に検討することとし、それ以外の場合には、承認前ではなく、市販後の適切な時期(例えば、市販直後調査のデータが得られた時点や、新たな安全性情報が得られた時点で新たなリサーチクエスチョンが見いだされた場合)に、その要否を含め、検討することとした。

 

B 全例調査の対象について

 

 単に日本人の治験の症例数が少ないことのみを理由とした全例調査は、原則として行わないこととした。例えば、次のような場合には、一律には全例調査を実施しないことを考慮してよいこととした。

 

・日本人を対象とした治験の症例数は限られているものの、海外での治験を含め相応の安全性情報があり、安全性にかかる国内外の民族差の懸念がないもの。

 

・作用機序が同様の類薬での使用実績から一定の安全性情報があり、一定の評価を受けているもの。

 

・適応追加に係る申請に基づく調査であり、製剤としての使用実績から一定の安全性に係る情報があり、既存の適応症との安全性プロファイルに差異について懸念がないもの。

 

 また、リスク最小化を目的とした全例調査は、行わないこととする。

 

 なお、リスク最小化には、従前どおり市販直後調査や医療機関や医師の要件の設定等を活用することとした。

 

 具体的なリサーチクエスチョンがあり、全例調査が必要と認められる場合には、全例調査を行うことが否定されるものではないことを確認した。

 

C データベース等のRWDの活用について

 

 製造販売後調査として使用成績調査による積極的な情報収集を行わない場合であっても、製造販売後の安全監視活動においてデータベース等の RWD を用いて幅広く情報を収集することは有用であり、(引き続き事例の紹介等を含め、)RWD の利活用を推進すべきこととした。

 

 併せて、製造販売後調査に資するデータベースの整備等の基盤構築に取り組むべきこととした。

 

 また、検討会では、これらの対応と併せて、市販直後調査について、これまで以上に重要度が増していくことから、MR の人数が少なくなる中、医師が市販直後調査に協力しやすいような対応について、製薬業界において検討を行うことが重要との意見があった。

 

 また、GPSP 省令に基づいて行われる使用成績調査について、同意説明や倫理審査の手続きを法制的に整備するべきとの意見があった。

<医薬品の製造方法等に係る薬事審査等のあり方について>

 

@ 中等度変更事項の導入

 

 医薬品の製造方法等の変更管理については、欧米と同様に、変更案を提出し、短期間の確認期間を経て変更を行うことができる新たな変更カテゴリとして「中等度変更事項」を導入すべきこととした。

 

 制度の詳細やフィージビリティを検討するため、まずは対象を限定して試行的に導入すべきこととした。

 

 試行における「中等度変更事項」の対象については、変更内容のリスクの程度に基づき、@初回承認申請又は一変申請の審査においてあらかじめ「中等度変更事項」として特定された事項、及びA変更が生じた都度のPMDA相談で中等度変更事項への該当性を確認された事項とした。

 

 また、試行においての「中等度変更事項」に係る薬事手続は、現行の一変申請の一類型とした上で、その審査を短期間で実施することとした。

 

 試行的実施の方法、その結果を踏まえたその後の制度のあり方、GMP調査の要否を含めて検討し、具体的な制度設計については、今後、国際整合性を踏まえながら、製薬業界・行政間で引き続き議論していくべきこととした。

 

A 年次報告の導入

 

 承認書上の製造方法等のうち、重要度の低い事項(現状、軽微変更届の対象となっている事項を含む。)の記載については、例えば参考資料として位置付けるなどにより、年次報告とすることができる制度を導入すべきこととした。

 

 年次報告は、製造販売業者が希望により選択して利用できる位置付けとする。(例えば、希望する場合は、あらかじめ承認書上で年次報告する旨をコミットメントするなどを想定)

 

 また、年次報告の内容の確認は、例えばPMDAの相談の枠組みを活用し、過去に提出された軽微変更届の内容も含め確認し、その確認を記録とすることも視野に、検討を進めるべきこととする。

 

 具体的な制度設計については、今後、製薬業界・行政間で議論していくべきこととした。

 

B 承認書の記載事項のあり方について

 

 中等度変更事項や年次報告の導入に伴い、承認書の製造方法等の記載事項についても、欧米との制度の違いも含めて検討していく必要がある。

 

 製造方法等の記載事項については、従来、「改正薬事法に基づく医薬品等の製造販売承認申請書記載事項に関する指針について」(平成17年2月10日付け薬食審査発第0210001 号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)において例示されてきた。

 

 本通知は、平成17年当時は日本の実情に合った内容であったものの、近年では、欧米での記載方法とは必ずしも一致していないこともあり、例えば以下のような事項を含めて、様々な課題が発生している。
・製造工程のパラメータについて、目標値/設定値として一点で記載を通常求めていること(海外では幅記載が通常)。

 

・製造工程のうち、重要工程を特定し、記載させること。

 

・軽微変更に該当する項目を、あらかじめ特定し、記載させること。

 

・製造所間の製造物の移動について製造所ごとに連番を付すことにより特定する必要があること(保管製造所との移動を柔軟に行いにくい)

 

 こうした課題については、これまで、以下のような議論の場で、製薬業界と行政との間で議論を行ってきた。

 

・承認書記載内容に関する検討の統一化会議(厚労省、PMDA、製薬業界)

 

・AMED 研究費医薬品等規制調和・評価研究事業「先進的製造・品質管理及び評価手法を反映した医薬品のライフサイクルマネジメントに関する研究」(厚労省・国衛研、PMDA、製薬業界)

 

 このため、中等度変更事項や年次報告の導入に伴う、承認書の製造方法等の記載事項のあり方については、2月10日付け通知を全面改正することを含め、試行的な実施の方法にはとらわれず、国際的に整合したリスクベースの変更管理が実現できるよう、引き続き製薬業界・行政間で議論を進めるべきこととした。

<有識者検討会の議論を踏まえた薬事監視の向上について>

 

 有識者検討会における指摘事項については、以下の対応を行うべきこととされた。

 

@製造所における管理体制に係る評価項目の見直し

 

 令和3年7月に、都道府県に対して、医療用後発医薬品の承認審査時に行われるGMP 適合性調査について、調査対象の製造所において、製造品目数、製造量等に見合った製造・品質管理体制が確保されていることを確認することを依頼済みであったが、今後さらに、後発医薬品の GMP 適合性調査において重点的に調査すべき事項を整理し都道府県へ周知を図る。

 

A都道府県における薬事監視の体制の強化

 

 令和5年度から、都道府県及び厚生労働省が連携の上、全国の製造所から相対的に高リスク製造所を抽出し、PMDA と都道府県が合同で無通告立入検査を行う、「合同無通告立入検査」の取組を開始し、高リスク製造所を対象に、都道府県がPMDA と連携することで重点的かつより高度な立入検査を可能とするとともに、都道府県調査員に対してPMDAの実践的な調査能力を習得する機会を提供する。

 

B国と都道府県の薬事監視の速やかな情報共有を含めた連携体制の整備

 

 令和4年度から、国内のGMP査察能力を向上させるため、PMDAにおいて、都道府県調査員の教育訓練や都道府県による査察への同行による知識共有等を行うとともに、PMDAの調査員及び外部専門人材の確保を行う、「GMP管理体制強化等事業」を実施してきたが、令和6年度からは、本事業を拡充し、国と都道府県の薬事監視の速やかな情報共有を含めた連携体制の整備を行い、薬事監視の質的な向上を図るため、PMDAにおいて、全国のGMP調査において判明した不備事項を収集・蓄積・共有・分析等を行う体制の検討・構築を行う。

 

 また、上流問題への薬事監視の観点での対応については、当面の対応策として、「合同無通告立入検査」の枠組も活用した、都道府県及びPMDAによる無通告立入検査の強化・実施や、「GMP 管理体制強化等事業」の枠組みによる都道府県調査員の教育・訓練による都道府県調査員の調査技術の向上、後発医薬品の GMP 調査において重点的に調査すべき事項を整理・周知することによる、都道府県 GMP 調査員の調査技術の向上を行うべきこととされた。

 

 また、上流問題への対応も含め、GMP 調査制度における中長期的な課題として、現状都道府県が調査主体となっている品目であっても、都道府県の事情に応じてPMDAが調査を実施できるような制度を含む、都道府県の支援体制の創設についても議論を行うべきこととされた。

 

 リスクに応じた GMP調査の推進については、これまでもリスクに応じたGMP 調査を推進しているが、さらに、今後は「合同無通告立入検査」の取組や「後発医薬品の GMP 調査において重点的に調査すべき事項」も活用し、一層の薬事監視の強化を図るべきこととした。

 

 産業界が要望するリスクベースでのGMP調査の選定により、書面調査等を縮小・廃止することは、上述の取組により GMP 調査の効率・合理化を図った上で不正事案への監視を行っている現状を踏まえ、監視体制の低下に繋がり、製造業者のコンプライアンス意識の低下や不正事案の更なる発生を招くおそれがあるため、その実現は困難と考えられた。

 

 書面調査もそのための補完手段として活用している中で、現状の GMP 調査員のリソースにおいて、書面調査等を縮小・廃止しても高頻度での実地調査は見込めないためである。

 

 一方、リスクに応じた GMP 調査制度の在り方については、今後も引き続き検討を行い、事業者や行政の負担を考慮して必要な運用改善を行うべきこととされた。

 

医薬品の安定供給の確保に向けての検討内容

 

 「医薬品の安定供給の確保」については、次のような事項を検討している。

 

 医薬品製造

 

 


 厚生労働省の薬価制度改革の資料には、次のような後発医薬品産業の在るべき姿が示されている。

 

○ 現下の後発医薬品を中心とする医薬品の供給不安の背景には、

 

・後発医薬品市場が過去 15 年間で急拡大する中で、未だ後発医薬品産業には比較的中小規模で、生産能力や生産数量が限定的な企業が多いこと

 

 その中で、

 

・収益性の高い新規製品の薬価収載を繰り返して収益を確保する一方、上市後5年間の安定供給が要請され、薬価削除にも一定の手続が必要であることなどから、少量多品目生産が広がり、品質不良リスクや生産効率、収益性の低下を招いているという後発医薬品産業の構造的課題がある。

 

○ こうした課題を抱える中で、2021(令和3)年以降、品質管理に係る違反事案により業務停止処分等が相次いでいるが、元々生産能力に余裕がない中で、他社が供給停止等になり急激に需要が増大しても容易に増産して対応することができず、一社が供給停止になると一定の在庫を確保するため、同効薬に限定出荷が拡大していることが、長引く供給不安の一因と考えられる。

 

○ 現下の供給不安を早急に解消し、将来にわたって後発医薬品が安定的に供給されるためには、後発医薬品企業それぞれが真摯に後発医薬品の信頼回復と供給不安の解消、再発防止に取り組むとともに、後発医薬品産業の10年後、20年後を見据えて、その在り方そのものを変えていく構造改革をそれぞれの企業と後発医薬品産業界が自ら率先して行っていくことが求められる。

 

○ このため、まずは、医薬品を国民に供給する企業の社会的責任として当然の前提、いわばベースラインとして、品質の確保された医薬品を安定的に供給できるように、後発医薬品産業の本来在るべき姿を取り戻さなければならない。具体的には、以下の3点の実現を目指していく必要がある。

 

@ 全ての企業において製造管理・品質管理体制が整っていること(製造管理・品質管理体制の確保)

 

A それぞれの企業において医薬品を安定的に供給できる体制が保たれるとともに、産業全体として必要に応じて増産を行う余力のある体制が確保できていること(安定供給能力の確保)

 

B 収益と投資の好循環が確立しており、産業として持続可能な形になっていること(持続可能な産業構造)

 

○ この在るべき姿の実現に当たっては、個々の後発医薬品企業と産業全体において、これらを実現するための適切な体制が構築されていることが重要であり、次章以降に示す徹底した自主点検の実施、ガバナンスの強化、個々の企業における安定供給確保体制の整備、生産効率の向上、企業間の連携・協力の推進といった対策を業界自らのイニシアティブで進めていくべきである。

 

○ 対策の実施にあたっては、現下の供給不安の解消のためにも、5年程度の集中改革期間を設定して、実施できるものから迅速に着手しつつ、実施すべき対策を整理したロードマップを速やかに策定し、実施状況を定期的にきめ細かくフォローアップしながら供給不安の早期の解消と再発の防止を着実に行っていく必要がある。

 

 対策の方向性については、次のように示されている。

1.製造管理・品質管理体制の確保

 

○ 品質が確保された後発医薬品を安定的に供給し続けるに当たり、製造管理及び品質管理の徹底は当然の前提である。品質管理に関する薬機法違反事案が相次いでいることが現下の供給不安の端緒となっている現状を踏まえ、後発医薬品への信頼回復と供給不安の再発防止のためにも、製造管理・品質管理体制の強化が必要不可欠である。

 

○ 後発医薬品企業においては自らの襟を正し、製造管理・品質管理の徹底を図り、産業全体が一丸となって後発医薬品の信頼回復と供給不安の解消、再発防止に取り組まなければならない。

 

(徹底した自主点検の実施)

 

○ これまでも、厚生労働省通知に基づく医薬品の製造販売承認書と製造実態の整合性に係る一斉点検や、日本ジェネリック製薬協会(JGA)が作成した製造販売承認書チェックリストに基づく各企業の自主点検が行われてきているが、それにもかかわらず、製造管理・品質管理に関する薬機法違反事案が続いている現状を踏まえ、2024(令和6)年4月から、JGA会員企業以外も含めた後発医薬品企業全てにおいて、徹底した自主点検を早急に実施することとされた。

 

○ その際、中立な立場からチェックができるよう製造部門とは独立した部門が点検を担当することになるが、第三者である外部機関の活用も推奨するとともに、書面による点検に加え、書面と実際の乖離がないかを確認するため、製造・試験等に従事している従業員等へのヒアリングも実施することが重要である。また、点検結果を企業情報の可視化の取組の中で公表するとともに、所管都道府県・厚生労働省へ確実に報告し、実効性を担保することが重要である。

 

(ガバナンスの強化)

 

〇 相次ぐ一連の行政処分において、各企業におけるガバナンスの不備や不十分な教育、過度な出荷優先の姿勢、バランスを欠いた人員配置などが製造管理及び品質管理上の管理不備やコンプライアンス違反につながったことが指摘されており、法令遵守を含むガバナンスの強化や人材育成を推進する必要がある。

 

○ 製造管理・品質管理を徹底するためには、各社のクオリティ・カルチャーの醸成が重要である。特に、人材育成については、OJT・座学によるGMP教育だけでなく、クオリティ・カルチャーの醸成を踏まえた人材育成を行うべきである。

 

○ 後発医薬品産業は比較的規模が小さい企業が多く、品質管理のためになぜこのような手順で作業しなければならないのかを理解するための作業教育やGMP教育を行うことに時間やリソースを割くことが難しい場合も多いと考えられる。

 

 そうした人材育成やクオリティ・カルチャー醸成を行うリソースやノウハウが不足していると考えられることや、従来のマインドセットからの転換が必要であることを踏まえると、個々の企業での取組には一定の限界がある。

 

 従って、業界団体を中心に、外部での研修の実施・活用や、品質管理を重視した人事評価や人材育成に係るベストプラクティスの共有、委受託等企業間での連携の際の知識・技能の伝達などを検討し、息の長い風土改善を推進していくべきである。

 

 また、例えば、複数企業による品質管理業務の協業などの好事例の展開や、品質管理上ミスが発生しやすい事項や指摘を受けた事項の共有を行うこと、リスキリングやリカレント教育の活用などにより、効率的な製造管理・品質管理を推進していくべきである。

 

(薬事監視の強化・向上)

 

○ 薬事監視については、有識者検討会において、「製造所における管理体制に係る評価項目の見直しを含め都道府県における薬事監視の体制を強化するとともに、国と都道府県の薬事監視の速やかな情報共有を含めた連携体制の整備を行い、薬事監視の質的な向上を図る必要がある」と指摘されている。

 

○ 厚生労働省においては、都道府県に対して、後発医薬品の承認審査時に行われるGMP適合性調査について、調査対象の製造所において、製造品目数、製造量等に見合った製造・品質管理体制が確保されていることを確認することを依頼するとともに、後発医薬品のGMP適合性調査において重点的に調査すべき事項を整理し都道府県へ周知している。

 

○ また、2023(令和5)年度からは、都道府県及び厚生労働省が連携の上、全国の製造所から相対的に高リスク製造所を抽出し、PMDAと都道府県が合同で無通告立入検査を行う、「合同無通告立入検査」の取組を開始している。

 

○ さらに、国と都道府県の薬事監視の速やかな情報共有を含めた連携体制の整備としては、2022(令和4)年度から、国内のGMP査察能力を向上させるため、PMDAにおいて、都道府県調査員の教育訓練や都道府県による査察への同行による知識共有等を行うとともに、PMDAの調査員及び外部専門人材の確保を行う、「GMP管理体制強化等事業」を実施しており、2024(令和6)年度からは、本事業を拡充し、国と都道府県の薬事監視の速やかな情報共有を含めた連携体制の整備を行い、薬事監視の質的な向上を図るため、厚生労働省、PMDA及び都道府県が連携して、全国のGMP調査において判明した不備事項を収集・蓄積・分析・共有等を行うこととしている。

 


2.安定供給能力の確保

 

○ 品質の確保された医薬品が安定的に供給されるためには、それぞれの企業において医薬品を安定的に供給できる体制が保たれるとともに、産業全体として必要に応じて増産する余力のある体制が確保できている必要がある。

 

○ 個々の企業における安定供給体制の確保とは、具体的には、各企業において適切に需要の予測を行い、それに対応した生産計画を構築すること、また需要の増大に応じて柔軟に対応するために一定の在庫の確保を行うとともに、増産が可能となるよう生産能力の確保を行うことであると考えられる。

 

○ また、産業全体としての安定供給とは、感染症の流行や災害、個々の企業の供給停止等の様々な要因によって起こる需要の変動に対応して医薬品の供給を行うための生産能力の確保や在庫の放出を各企業が補いあいつつ着実に実施することであると考えられる。

 

○ そして、個々の企業がそれぞれで把握する需要の増大を統合して把握し、市場全体での需要の変動を探知し対応することは困難であることから、国において平時から医薬品の需給状況のモニタリングを行う必要がある。

 

 また、感染症や各企業における供給停止等を起因とする需給の変動に対応して、産業界のみならず医療機関等や医薬品卸売販売業者を含めて対応措置を講じるための司令塔機能として、国のマネジメントシステムが必要であると考えられる。

 

@ 個々の企業における安定供給確保体制整備

 

○ 我が国においては、これまで品質の確保された医薬品が、安定的に供給されてきており、個々の企業の安定供給の確保について統一的な枠組みが確立されていなかった。

 

○ 薬価基準収載医薬品は、全国レベルで保険医療機関又は保険薬局の注文に応じて継続的に供給することが必要であることから、後発医薬品については、厚生労働省通知に基づき、安定供給の要件を規定し、

 

・ 正当な理由がある場合を除き、少なくとも5年間は継続して製造販売し、保険医療機関及び保険薬局からの注文に迅速に対応できるよう、常に必要な在庫を確保すること。また、医薬品原料の安定的かつ継続的な確保に留意すること

 

・ 注文を受け付けてから、適切な時間内で保険医療機関及び保険薬局に届けられるよう全都道府県における販売体制を整備すること。また、容易に注文受付先がわかるよう保険医療機関及び保険薬局に必要な情報を提供すること

 

・ 保険医療機関及び保険薬局からの安定供給に関する苦情を迅速かつ適切に処理しその改善を行う体制を整備し、その実施に努めることを求めている。

 

○ また、産業界における自主的な取組としては、日本製薬団体連合会において、2014(平成26)年から「ジェネリック医薬品供給ガイドライン」を作成しており、2024(令和6)年1月改訂の最新ガイドラインでは在庫管理に関する手順について、

 

・ 「在庫管理の担当者」を定め、生産実績、販売実績及び在庫状況を把握し、必要に応じて、生産計画・購買計画の見直し等を要請すること

 

・ 社内在庫及び流通在庫を合わせて、平均3か月以上を目途に確保すること 等を定め、各後発医薬品企業においては当該ガイドラインに準拠した「安定供給マニュアル」を作成し、適切な運用を図ることとしている。

 

(安定供給責任者の指定、供給実績の確認)

 

○ さらに、後発医薬品の収載を希望する企業には、従前より医薬品の安定供給体制に係る概要や「安定供給マニュアル」等の提出を求めていたが、2024(令和6)年度から、安定供給に寄与する組織・責任者に関する資料を求めるとともに、薬価収載後の各品目の供給実績の確認を実施することとしている。

 

(企業の安定供給体制の確保に関する措置の検討)

 

○ まずは、業界における自主的な取組であるジェネリック医薬品供給ガイドラインに準拠した各企業の「安定供給マニュアル」に基づく取組を着実に実施していくべきである。

 

○ その上で、企業の安定供給体制の確保を実効あるものとしていくため、これまでの仕組みが法令等で担保されたものではなかったことや、本検討会でも各企業に「安定供給マニュアル」はあるもののその運用がおざなりになっているという指摘があったことも踏まえ、安定供給確保に関する責任者の設置等ジェネリック医薬品供給ガイドラインで既に実施することとされている事項も参考としつつ、企業に求めるべき事項を整理して一定の対応措置を講ずることを求め、これを企業に遵守させるための枠組みを整備することが考えられる。

 

○ 具体的には、

 

・ 安定供給責任者の設置、要件、実施すべき事項

 

・ 後発医薬品企業だけではなく、医薬品を製造販売する全ての企業を含めた統一的な枠組みとすること

 

・ 安定供給を図るため、企業が遵守すべき事項として、安定供給に係る組織体制の整備や、運用マニュアルの整備、製造委託先企業や原薬メーカー等との契約締結にあたって明確にすべき安定供給に関する事項を定めること

 

・ 一定の在庫や生産管理に関する事項

 

・ 当該枠組みの実効性を確保するための措置

 

 等を規定することが考えられる。これらの枠組み及び間接的に取組の措置実行を遵守させる仕組みとしての薬価収載時の取扱いについて、「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」等において検討を進めるべきである。

 

(企業間の委受託関係の透明化・責任の明確化)

 

○ 個々の企業の安定供給体制確保に関する枠組みの整備を検討する際には、後発医薬品企業の間では相互に委託製造を行うことが広がっており、その際の企業の安定供給体制の確保に係る責任の所在が必ずしも明確ではないことを踏まえ、企業情報公表の枠組みの中で委受託の関係を透明化するとともに、安定供給体制の確保に係る責任の在り方を整理していく必要がある。

 

A 医薬品等の安定供給確保に係るマネジメントシステムの確立

 

○ 従来、国における医薬品等に係る需給情報の把握については、厚生労働省通知に基づき、供給不足が生じるおそれがある場合には、製造販売事業者から厚生労働省に対して速やかに情報提供するよう求めるとともに、状況の詳細をヒアリングし、供給不安解消に向けて、医療機関等への適正使用依頼や製造販売企業への増産依頼、医療機関向け案内文書発出の指導等の供給不安解消に向けた対応を行ってきた。

 

○ 2024(令和6)年度からは、今後の供給不足が生じるおそれがある場合に早期報告により当該不足を未然防止することを目的とする供給不安報告と、供給情報の速やかな医療機関への共有を目的とする供給状況報告の2つの報告制度に整理し、収集情報の拡充を行うとともに、供給状況報告については、報告内容を随時、厚生労働省ウェブサイトに公表することで医療機関等へ早期に情報を提供することとしている。

 

○ これに加えて、新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえ、感染症まん延時等において、医薬品等が確実に確保されるよう、緊急時における国から事業者への生産要請・指示や、平時から事業状況の報告を求めることができる枠組みが、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第 96 号)により整備され2024(令和6)年度から施行された。

 

○ これにより、感染症対策物資等については、改正感染症法に基づき、国による需給状況の把握や供給不安時の対応を行う仕組みが確保されるとともに、それ以外の医薬品等についても、改正医療法に基づき、生産の減少その他の事情によりその供給が不足し、又は不足するおそれがあるため、医療を受ける者の利益が大きく損なわれるおそれがある場合には、国から製造販売業者に対して、生産、輸入、販売といった供給に関する報告を求めるとともに、報告を受けた場合には、国が当該報告に関する情報を公表することが可能となった。

 

○ しかし、改正感染症法に基づく需給状況の把握や供給不安時の対応については感染症対策物資等として指定された医薬品等に限られる。また、改正医療法上、その他の医薬品については供給不足により医療を受ける者の利益が大きく損なわれるおそれがある場合といういわば緊急時に供給に関する報告を徴収するに止まり、平時からの需給状況の把握ができず、また国から事業者への生産要請等のアクションを行うことができる仕組みとはなっていない。

 

○ 現下の供給不安においては慢性疾患に係る医薬品も問題となっていることも踏まえ、医薬品等の安定供給を確保するマネジメントシステムの制度的枠組みについて検討していくべきである。

 

○ その際、後発医薬品以外の医薬品等についてもこのマネジメントシステムの制度的枠組みの対象とすべきであることから「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」等において議論を行うべきである。

 

 同会議においては、平時からの需給状況の把握等については改正感染症法を参考に感染症対策物資等以外も対象とすること、供給不安や供給不足が発生した場合の情報の把握等については本年4月から開始した供給不安報告・供給情報報告を参考にすること、2020(令和2)年度以降変更されていない安定確保医薬品についてその対象を検討すること、供給不安解消策として改正感染症法を参考に生産促進要請や輸入要請等を検討すること、医薬品卸売販売業者、医療機関、薬局に対しても協力の要請を行えるようにすること等が議論されている。引き続き、より実効性を高めるための措置の在り方、医療機関・薬局に対する適時適切な情報提供を含め、議論を深めていくべきである。

 

(サプライチェーンの強靱化)

 

○ 医薬品等の安定供給体制確保に係るマネジメントシステムを検討する際には、安定供給に関わる他の要因である原薬・原材料の確保を含むサプライチェーンの強靱化についての検討が必須である。

 

 有識者検討会においては原薬等の共同調達の取組の促進や、リスクシナリオの整理とそれを踏まえた行動計画の整備、一連のサプライチェーン上の供給状況を迅速に把握する仕組みの構築を検討するべきとされている。

 

 これらの具体策の検討に当たっては、後発医薬品以外も含めた医薬品等全体に関わる課題であることから、厚生労働省で実施している「医薬品供給リスク等調査及び分析事業」における調査分析も踏まえ、「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」等において議論を行うべきである。

3.持続可能な産業構造

 

○ 第1章において、後発医薬品産業全体の構造的問題として、

 

@ 比較的中小規模の企業が多く生産能力や生産数量が限定的な中で、比較的収益性の高い新規製品の薬価収載を繰り返し、容易に市場から撤退することができないという医薬品特有の事情もあいまって、少量多品目生産が広がっていること、そのことが生産の非効率等の問題を招いていること、

 

A 薬価収載後も総価取引等の流通慣行や価格競争によりさらに価格が下落し低収益構造につながることなどがあると指摘した。

 

○ こうした後発医薬品産業全体の構造的問題を解決し、産業として持続可能な構造とするため、

 

@ 個々の企業においては、少量多品目生産を適正化し、生産効率のよい体制とすること、

 

A 産業全体としては、後発医薬品企業が安定的に収益をあげ、品質の確保された医薬品の供給に向けた投資を行う好循環を生み出すための価格や流通の在り方を改善していくことが必要である。

 

○ 新規収載品の品目数の適正化を推進する方策や既収載品目の統合について、「2.安定供給能力の確保」「4.企業間の連携・協力の推進」における取組とあわせて以下の点について検討すべきである。

 

@ 少量多品目生産の適正化等生産効率の向上のための方策

 

○ 少量多品目生産の適正化にあたっては、(ア)新規薬価収載の際の品目数の適正化と、(イ)既収載品目については、企業間の品目統合とそれに伴う薬価削除による市場からの撤退の両面のアプローチが考えられる。

 

○ (ア)新規薬価収載の際の品目数の適正化については、令和6年度薬価制度改革において、後発医薬品の新規収載時の薬価算定における、同時に収載される内用薬が10品目を超える場合に先発品の0.4掛けとする規定について、同時に収載される内用薬が7品目を超える場合に先発品の0.4掛けとすることとされた。

 

○ (イ)企業間の品目統合とそれに伴う薬価削除による市場からの撤退については、製造方法等の変更のため薬機法上の手続があることに加え、安定供給の観点から薬価削除の際に一定の手続が課せられるなど、個々の企業単独では容易に撤退の判断が難しいという側面がある。

 

(製造方法等の変更に係る薬事手続の簡素化)

 

○ 厚生労働省において、国際整合等の観点から、製造方法等の変更管理における薬事手続において、欧米と同様の中等度変更事項及び年次報告を試行的に導入することとしている。

 

 また、製造方法等の記載事項に係る通知の改正について、リスクベースの変更管理が実現できるよう検討を進めている。

 

 これらの対応により、後発医薬品企業間の品目統合や生産効率向上のための製造方法変更等の際の薬事手続の円滑化が期待され、ひいては製造現場における生産効率向上のための創意工夫や改革意識の醸成にもつながることが期待される。引き続き、安定供給に資する製造方法等の変更管理に係る薬事上の対応について必要な対応を検討していくべきである。

 

(既収載品目の市場からの撤退のための薬価削除等プロセスの明確化・簡素化)

 

○ また、既収載品目を統合し、一方の品目が市場から撤退する際の供給停止や薬価削除については、製薬企業からの供給停止事前報告書の提出や医療現場における医療上の必要性の確認等のプロセスを経る必要がある。

 

○ このため、関係学会や製薬企業双方の負担軽減も考慮し、供給停止・薬価削除プロセスについて、少量多品目生産の適正化の観点からプロセスの明確化を図るとともに、一定の条件の下で簡素化するなどの方策について、「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」等において検討を行うべきである。

 

○ その際、供給停止・薬価削除プロセスの明確化・簡素化の具体策の検討に当たっては、代替品やシェアの状況を踏まえた医療上の必要性や後発医薬品の流通に与える影響に留意すべきである。

 

(規格揃え原則の合理化)

 

○ 薬価基準への収載を希望する後発医薬品については、その承認に当たって標準製剤となった先発医薬品(以下「標準先発品」という。)が有する規格を、全て揃えて薬価基準収載することが求められている。標準先発品が有する規格で、医療上必ずしも必要でないと考える規格がある場合には、製薬企業の報告に基づき個別に判断することとされている。

 

○ 規格揃え原則については、需要の少ない規格(非汎用規格)もあるが、製造技術上少量の生産が困難であることから、一定の廃棄数量分を含んだ製造がなされており、赤字品目となっている製品がある。

 

○ このため、後発医薬品の薬価収載時は全規格を取り揃えることを原則としつつ、安定供給が求められる収載後5年間を経過した後は、医療現場での使用状況を踏まえ、医療上の必要性等に照らして全規格を取り揃えることが必ずしも必要ではないと考えられる品目について、一部の規格のみであっても供給停止・薬価削除プロセスを適用できるようにすることを「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」等において検討すべきである。

 

 また、薬価収載後5年を待たず、薬価収載時に医療上必ずしも必要でないと考える規格がある場合の取扱いを明確化することも検討すべきである。

 

 口腔崩壊錠(OD錠)についてもこの中で検討するべきである。なお、全規格を取り揃える企業とそうでない企業が出てくることから、企業ごとに有利不利が生じないよう配慮が必要であるとともに、規格が揃わないことにより医療現場での調剤に影響が生じないようにすべきである。

 

(企業間の生産数量等の調整に係る独占禁止法との関係の整理)

 

○ 品目統合の加速化に向けて、互いに生産数量や価格、納入先について企業間で情報交換することについては、独占禁止法に抵触するのではないかという懸念が寄せられていることから、平時に適法に情報交換するにはどのような態様で行えばよいのか、公正取引委員会と整理を行い、後発医薬品企業に周知を行うことが考えられる。

 

A 後発医薬品企業が安定的に収益をあげ、品質の確保された医薬品の供給に向けた投資を行う好循環を生み出すための価格や流通の在り方

 

○ 有識者検討会においては、「新規品目の上市に当たって、十分な製造能力を確保していることや継続的な供給計画を有しているといった安定供給を担保するための一定の要件を求め、これらの要件を満たさない企業は結果として市場参入することができなくなる仕組みを検討すべき」と指摘され、その上で、「医薬品の安定供給等に係る企業情報(製造能力、生産計画、生産実績等)の可視化(ディスクロージャー)を行った上で、これらの情報を踏まえた新規収載時及び改定時の薬価の在り方を検討すべき」とされた。

 

○ これらを踏まえ、本検討会及び中央社会保険医療協議会で議論を行った結果、

 

・ 企業情報公表の仕組みの創設

 

・ 企業情報の薬価制度での活用

 

 を行うこととしている。

 

(企業情報公表の仕組みの創設)

 

○ 企業情報公表の仕組み創設については、中間とりまとめにおいて、品質が確保された後発医薬品を安定供給できる企業が市場で評価され、結果的に優位となることを目指すことを基本的な考え方として、具体的な対応の方向性を示したところである。

 

○ これを踏まえ、厚生労働省において、公開すべき情報提供の内容や判断基準等の考え方を「後発品の安定供給に関連する情報の公表等に関するガイドライン」として公表したところである。2024(令和6)年度前半のできるだけ早いうちに、企業によるウェブサイトでの公表を開始すべきである。

 

(企業情報の薬価制度等での活用等)

 

○ また、中間取りまとめにおいて、企業情報公表の仕組みにおける「各公表事項については、一定の基準を設定した上で、当該基準に基づき厚生労働省が評価を行う」「評価結果を薬価制度・その他医薬品に係る制度的枠組みに活用することを検討すべきである」としたところである。

 

○ 企業情報の薬価制度での活用については、令和6年度薬価制度改革において、企業の安定供給体制等を評価し、評価結果の薬価制度における活用については試行的な導入として最小限のものから適用することとされた。

 

 具体的には、「後発品を製造販売する企業の評価」21に基づき、企業の安定供給体制等を評価し、評価が最も高い企業区分(A区分)と評価された企業の品目の一部について、現行の後発医薬品の改定時の価格帯集約(原則3価格帯)とは別に、該当する品目のみを集約することとされ、2024(令和6)年4月から運用が開始された。

 

○ また、基礎的医薬品については、収載からの経過期間に関する要件について、25年から15 年に短縮するとともに、不採算品再算定については急激な原材料費の高騰、安定供給問題に対応するため、企業から希望のあった品目のうち、乖離率7.0%以内の品目を対象に特例的に適用することとされた。

 

○ 令和6年度薬価制度改革における措置に関しては、前述の品目数の適正化のための措置も含めて、後発医薬品の企業指標の導入や今後の情報公表も踏まえた医薬品の安定供給に対する影響等について、製薬業界の協力を得つつ分析・検証等を行うともに、こうした課題に対する製薬業界としての対応を踏まえながら、薬価における評価の在り方について引き続き検討することとしている。

 

○ 2の@の個々の企業における安定供給確保体制整備に関する措置の内容についても、薬価における企業の安定供給体制等の評価と互いに整合するよう、厚生労働省において検討するとともに、上市にあたって十分な製造能力を求める観点からの企業指標の活用や、安定供給が確保できる企業の品目を医療現場でより選定しやすくするための企業区分の公表についてもあわせて検討する必要がある。

 

 また、企業間の品目統合に伴う薬価削除のように、いわば当該企業の責めに帰すべきでない理由による薬価削除や一時的な出荷量低下によって、企業指標による評価上不利益が生じるおそれがあることから、不利益が生じないようにすることについても検討を加えるべきである。

 

(AGの在り方)

 

○ オーソライズド・ジェネリック(AG)については、有識者検討会において「先発品と同一の製剤処方で製造されるため、先発品と同様であるといった安心感から市場シェアを獲得しやすい傾向があるが、先発品企業がAGの製造販売業者からライセンス料等を得るケースが多く、形を変えた先発品企業の長期収載品依存となっている」と指摘されている。

 

 また本検討会においては、AGが薬事承認を取った後に薬価収載しない、又はするかどうかわからないという問題が、特にバイオシミラーなど大きな設備投資を要する医薬品の参入を検討する際に、憂慮すべき影響を与えているのではないかといった予見可能性への影響や、結果としてAGが出なかった際に後発医薬品企業だけでは十分な供給量とならず安定供給上の問題が生じるといった指摘がなされており、医薬品の供給不安が発生している現状においてAGが果たしている役割と、他の後発医薬品の参入に与える影響、令和6年度診療報酬改定で長期収載品に対する選定療養の仕組みが導入されることの後発医薬品市場への影響等を考慮しつつ、その動向を注視した上で今後のAGの在り方を検討するべきである。

 

(流通の在り方)

 

○ 有識者検討会において、後発医薬品が総価取引の調整に使用される傾向があり、薬価の下落幅が大きくなっていることが指摘されるとともに、医療上必要性の高い医薬品について従来の取引とは別枠とすることや、購入主体別やカテゴリー別に大きく異なる取引価格の状況や、過度な値引き要求等の詳細を調査した上で、海外でクローバックや公定マージンが導入されていることも踏まえ、過度な薬価差の偏在の是正に向けた方策を検討すべきであると指摘されている。

 

○ また、中央社会保険医療協議会における薬価制度改革の議論においては、薬価の下支え措置を行う前提として、医薬品の価値に応じた取引を行うことで、価格の下落幅が大きくならないよう、流通改善に取り組む必要があることが幾度も指摘されている。

 

○ このため、「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン(流通改善ガイドライン)」について、特に医療上の必要性が高い医薬品として基礎的医薬品や安定確保医薬品(カテゴリーA)、不採算品再算定品等については価格交渉の段階から別枠とし、単品単価交渉を行うこと、価格交渉代行を利用した場合に流通改善ガイドラインを遵守させること、原則、年度内は妥結価格の変更は行わないこと、返品や一社流通における取扱い等の内容を盛り込み、2024(令和6)年3月1日に改訂を行った。

 

○ これを踏まえ、製薬企業、医薬品卸売販売業者、医療機関・薬局等をはじめとした流通関係者全員が流通改善ガイドラインを遵守するとともに、過度な薬価差や薬価差の偏在状況を明らかにして、医薬品特有の取引慣行の是正を図り、適切な流通取引が行われる環境を整備するための方策について、「医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会(流改懇)」で検討を行うなど議論を加速するべきである。

 

○ 価格や流通の在り方に関連して、特許期間内に利益を出す先発医薬品と何十年も市場で供給され続ける後発医薬品とでは役割や使命が異なるのではないか、薬事規制や薬価も含め、後発医薬品の使命にあわせて在り方を検討すべきではないか、という意見があった。

4.企業間の連携・協力の推進

 

○ 有識者検討会においては、「少量多品目生産といった構造的課題を解消し、企業における品目ごとの生産能力を高める観点から、業界再編も視野に入れつつ、品目数の適正化や、適正規模への生産能力の強化を進めることが必要」「こうした観点から薬価の在り方を検討するとともに、他産業での業界再編に向けた取組も参考にしつつ、例えば、品目数の適正化に併せた製造ラインの増設等への支援や税制上の優遇措置を検討するなど、政府において、ロードマップを策定した上で、期限を設けて集中的な取組を行うべき」と指摘されている。

 

○ 第1章において、後発医薬品産業の構造的課題として、

 

・ 新規上市を繰り返し、少量多品目生産等により品質不良リスク、生産効率、収益の低下を招いていること

 

・ 品質管理に係る薬機法違反事案が続いていること

 

・ 比較的中小規模で、生産能力や生産数量が限定的な企業が多いこと、製造ラインに余力がなく、増産対応が困難であること

 

・ 一社が供給停止になると一定の在庫を確保するため、同成分の品目に限定出荷が拡大することを指摘した。

 

○ こうした構造的課題に対応していくに当たって製造管理・品質管理や安定供給体制の確保のための一定のコストを要する。加えて、今後、これまでのような大きな市場拡大が見込めない中で、ビジネスモデルを転換し、個社ごとにシェアの拡大や品目数の適正化により生産効率や収益性を向上させていくためには、ある程度大きな規模で生産や品質管理等を行っていくための体制を構築していくことも有効な選択肢となっていくと考えられる。

 

○ このため、本検討会では、品質管理や営業等の面での企業間の連携・協力や役割分担、コンソーシアムや企業統合なども考えられるのではないかという観点から議論が行われた。

 

○ 各企業において、企業間の品目統合やそれに伴う各企業での品目削除により少量多品目生産を適正化し、品目ごとの生産能力や生産規模を増大させ、採算がとれる生産体制を構築する必要がある。また、品目統合以外についても、製造部門、品質管理部門、営業部門、販売部門など様々な段階での企業間の協業により効率化を図ることが期待できる。

 

○ 本検討会での議論に呼応して、後発医薬品企業の間でも、

 

・ 大手企業が他の後発医薬品企業を買収し、品目統合や生産・品質管理を集約する等の効率化を実現していくモデル

 

・ 後発医薬品企業が事業の一部または全部について、他の企業に譲渡するモデル

 

・ ファンドが介在して複数の後発医薬品企業や事業の買収を行い、統合していくモデル

 

・ 複数の後発医薬品企業が集まって、新法人を立ち上げて屋号を統一化する形等により、品目・機能を集約・共有していくモデル

 

 そして、これらの前段階として、

 

・ 複数の後発医薬品企業が集まって、それぞれの屋号を残したままで、品目・機能を集約・共有していくモデル

 

・ 長期収載品も含め、他企業の工場に製造委託を進める中で、品目の集約化から事業再編を進めていくモデル

 

・ 物流の川下の視点からの安定供給に係る働きかけが、製造販売側の品目統合や生産計画にも影響を及ぼし、事業再編の端緒となるモデル

 

 等様々な形で企業間の連携・協力を進める検討が活発化しており、業界再編が行われる機運を高めていく必要がある。

 

(企業間の連携・協力の取組の促進策)

 

○ こうした業界再編の手法としては、合併・買収による場合や、ホールディングス化、資本提携や業務提携による場合などが考えられ、そのための事前の調査・分析、生産性向上のための設備の導入や老朽化した設備の改修、製造・情報管理システムの統合、品目・製造方法の統合後の薬事手続のための試験等様々な費用が生じることが想定される。

 

 後発医薬品産業の構造的課題を考えると、金融機関からの資金調達も困難であることも予想される。

 

 企業間の連携・協力を進めていくためには、他産業での業界再編に向けた取組も参考にしつつ、金融・財政措置等様々な面から政府が企業の取組を後押しする方策を検討していくべきである。

 

 なお、こうした企業間の連携・協力を推進するに当たっては、医療機関・薬局・医薬品卸売販売業者に対する情報提供を丁寧に行うなど、過渡期における安定供給や流通の混乱が生じないようにすることも留意が必要である。

 

(独占禁止法との関係整理)

 

○ 品目統合のための情報交換や協業、企業統合などについて、独占禁止法に抵触する可能性があるという漠然とした懸念により、企業間連携を前向きに検討できていない可能性があることから、厚生労働省において、後発医薬品業界向けに現行法の中で問題なく行える企業間連携等の具体的な事例について、わかりやすく示した事例集等を作成し、業界に積極的に周知を行うことが考えられる。

 

○ その上で、現行法の中でも対応できる企業結合や企業間の共同行為でも、公正取引委員会への事前相談に対する心理的ハードルの高さや手続の煩雑さから、後ろ向きな企業があると考えられるため、厚生労働省に、後発医薬品業界向けの相談窓口を設置し、独占禁止法上の懸念への相談や公正取引委員会への相談のための事務的な手続のサポートを行うことが考えられる。

 

※ 後発医薬品の安定供給のために必要な企業間連携であっても、独占禁止法上問題となる事例が一定数存在する場合には、独占禁止法との関係について整理が必要である。

 

 

 

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