K製薬は、2024年(令和6年)3月に、記者会見を行い「紅麹コレステヘルプ」などの自主回収すると発表した。
紅麹を含む特定のいわゆる「健康食品」を摂取したことによる健康被害事例が多数寄せられており、さらに死亡との因果関係が疑われる事例が報告された為である。
ただ、会見を開いたのは、健康被害について医師から初めて連絡があってから2か月以上がたっており、被害拡大の要因になったと指摘された。
また、「紅麹」を食品メーカーなど約50社に供給していたと明らかにした。
同社が生産している紅麹のうち、自社製品への使用は2割程度で、約8割は他社に原料として販売していたという。
K製薬の紅麹のサプリメントをめぐっては、6月5日の時点で5人が死亡、のべ285人が入院したと報告された。
その後、8月には摂取との関連が疑われ、詳細の調査が必要な死亡事例が118件に上った。
K製薬が問題を公表した直後の3月末。国と大阪市は、紅麹原料を製造していた大阪工場に立ち入り検査を行った。
大阪市の関係者によると、このときすでにカビとみられる汚れが見つかっていたという。汚れは黒っぽい色をしていて、工場内に点々と広がっていた。
4月中旬、大阪市は工場に再び調査に入り、壁や天井、器具などについたカビとみられる汚れを綿棒を使って採取した。
汚れは「培養室」や「試験室」など紅麹の製造に関わる5つの部屋の24か所で確認された。大阪健康安全基盤研究所で分析した結果、このうち6か所から青カビが検出された。
見つかったのは、紅麹のサプリメントに混入した物質、「プベルル酸」をつくるカビと同じ種類だった。
これを受け、厚生労働省は5月28日に「工場内の青カビが培養段階で混入し、『プベルル酸』などの有害化合物が生成されたと推定される」という調査結果を発表。
現在も原因物質の最終的な特定が進められており、今回の健康被害が紅麹そのものによるものか、『プベルル酸』が原因なのか、現段階では決定的な情報は得られていない状況である。
ただ、大阪工場で紅麹原料が製造されていたのは2023年12月までのため、カビの詳しい侵入経路の特定は難しい。
工場が閉鎖されたあとにカビが広がった可能性もある。
紅麹サプリの製造工程は、大きく3つに分けられる。
@米と紅麹菌を混ぜて培養し、乾燥した後、粉末にする段階
A粉末にしたものを混ぜ合わせて紅麹原料をつくる段階
B紅麹原料からサプリメントの錠剤をつくる段階
それぞれの段階で、残されていたサンプルを厚生労働省などが分析した結果、紅麹原料やサプリメントだけでなく、一番はじめの培養段階のサンプルからもプベルル酸などが検出されたことがわかった。
タンクの中に米と紅麹菌を入れ、およそ50日間かけて培養を行う。
厚生労働省は「工場内の青カビが培養段階で混入したと推定される」とする見方を示している。
厚生労働省などの調査では、動物実験でブベルル酸に腎臓の細胞を壊死させる毒性があることも確認された。
見つかった青カビがつくったプベルル酸が、多くの被害を出した原因だったのか。そのほかの可能性も含め、調査は続いている。
K製薬の紅麹関連事業は3年前から売り上げが2倍になるなど、ここ数年で拡大していて、製造用のタンクを増設するなど生産力の強化が図られてきたとのこと。
また、健康被害の原因であるかは不明としたうえで、委員会の聞き取りに対し大阪工場の従業員が「紅麹を培養するタンクのふたの内側に青カビが付着していた」と答えたと明らかにした。
青カビの付着について報告を受けた品質管理担当者は「青カビはある程度は混じることがある」と回答したという。
さらに、工場内の乾燥機が壊れ、紅麹原料が一定期間乾燥されないまま放置されていたという証言もあった。
会社側の対応を検証した外部の有識者委員会がまとめた調査報告書では、「今回の問題の原因かは不明であるものの、製造ラインの品質管理は現場の担当者にほぼ一任する状況で人手不足が常態化していた」と指摘している。
K製薬は問題となった紅麹のサプリメントを「機能性表示食品」として届け出ていたが、今の制度では検査の体制などについて厳格な基準を義務づけていなかった。
つまり、機能性表示食品は医薬品と異なり、事業者が安全性と機能性に関する科学的根拠などを消費者庁に届け出れば、審査を受ける必要は一切ない。
機能性表示食品の制度は、製品の安全性や機能性の科学的な根拠などを示す責任は事業者にあるという考え方で成り立っている。
機能性表示食品に関するガイドラインでは、健康被害については「入手した情報が不十分であったとしても速やかに報告するのが適当」としている。
しかし、義務はなく、強制力もなかった。
今回の事態を受けて、国は健康被害情報の報告義務や、違反した事業者に営業禁止や停止の措置をとることを可能にする方針を示し、制度の見直しを進めた。
消費者庁は2024年9月1日から、機能性表示食品での健康被害の報告を義務化した。
機能性表示食品を製造・販売する事業者に対し、医師が診断した健康被害情報について、因果関係が不明な段階でも速やかに都道府県知事や消費者庁に報告することを義務づけた。
K製薬が、被害を把握してから公表までに2カ月かかったことを踏まえたものである。
製造工程においては、品質を保つため医薬品で導入されているGMP基準に沿った製造や管理を2026年9月から義務化する。
また、トクホ(特定保健用食品)や医薬品との違いをわかりやすくするため、パッケージ上部に「機能性表示食品」の文字を枠で囲んで記載するなど、新たな表示方法も2026年9月から実施する。
サプリメントに関しては、医薬品の製造・品質の管理基準であるGMP(適正製造規範)認定を受けることが推奨されている。
しかし、これを強制する制度はなく、事業者の自主性に委ねられている。K製薬の大阪工場ではGMP認定を取得しておらず、社内のガイドラインなどに基づき検査を行うにとどまっていた。
GMPなどで第三者認証を受けていないと、自社の基準で品質管理や検査が甘くなる懸念がある。今回の問題でも十分な記録も残されておらず、多面的な原因究明が困難になっている。
もし、GMP(適正製造規範)認定を受け、以下のようにGMPを厳密に守ることができていれば、カビの混入を防ぐことができた可能性がある。
ただし、GMPを単に形式的に守るのではなく、実際の製造現場で効果的に適用し、徹底することが重要である。
<クリーンルーム管理>
環境管理: クリーンルーム内の温度、湿度、換気、空気圧、微生物レベルの管理を徹底する。
清掃と消毒: 定期的な清掃と消毒を行い、製造環境の清潔を保つ。
<従業員の教育と衛生管理>
個人衛生: 製造に関わる従業員は、手洗いや作業服の着用などの個人衛生を徹底し、製品や製造環境を汚染しないようにする。
トレーニング: 従業員に対して、GMPの遵守や衛生管理に関する継続的な教育を行う。
<原材料および製品管理>
原材料の管理: 原材料の受け入れ時に適切な検査を行い、カビなどの微生物汚染がないことを確認する。
在庫管理: 適切な保管条件を維持し、カビの繁殖を防ぐ。
<製造工程の監視と検査>
モニタリング: 製造工程での環境モニタリングを行い、微生物の存在を早期に検出するシステムを構築する。
品質検査: 最終製品の品質検査で微生物の検出を行い、製品の安全性を確認する。
GMPは、製品の安全性、有効性を確保し、製品の品質を一貫して保証することで、消費者の安全性を守ることができる重要な基準である。