ジェネリック医薬品の供給不足とは!?

ジェネリック医薬品の供給不足とは!?

 

 2023年8月時点で、医薬品の約2割に当たる約4000品目が供給不安に陥っている。

 

 

医薬品製造の基礎知識

 

 薬の供給不安は米国などにもあるが、出荷調整するのは年間で数十品目程度である。何千品目にも及ぶ日本の供給不安は異常な状況である。

 

 とくに足りないのが「メジコン」「アスベリン」「アストミン」「フスコデ」「レスプレン」などを医療機関で扱うほぼ全種の鎮咳ちんがい剤(せき止めの薬)と去痰きょたん薬(痰切り薬)である。

 

 せき止め薬は、医療用医薬品だけでなく市販の在庫もなくなっている。

 

 また、不足している約8割がジェネリック医薬品である。

 

原因@ 感染症の流行

 

 コロナ禍で感染症対策が徹底された影響で、3年間インフル流行は最小限に抑えられていた。

 

 そこに2023年5月の新型コロナの5類移行によって日本各地にウイルスが流行した。

 

 2023年夏以降は、新型コロナウイルスやインフルエンザ、風邪などの感染症の患者が増えた。

 

 とくに深刻なのが子ども用の薬で、ペニシリン系の抗生剤が足りていない。

 

原因A ジェネリックメーカーの不祥事と業界構造

 

 ジェネリック医薬品が不足し始めたのは、2020年(令和2年)12月に発覚した、ジェネリック医薬品メーカー「小林化工」の不祥事が発端となっている。

 

 水虫治療薬などに睡眠導入剤の成分が混入し、240人以上に健康被害が発生した。

 

 この事件をきっかけに、ジェネリックメーカーの「日医工」などの製造工程で不正が発覚し、13社が業務停止命令などの処分を受けた。

 

 その後も、多くの後発薬で品質不正が見つかり、出荷停止や販売中止に陥った。

 

 後発医薬品市場の急拡大の中で、薬価が急落したために、増産拡大を図るジェネリック医薬品企業の一部で「品質管理・製造管理」に対する管理と投資等を疎かにしたと言わざるを得ない実態が続いた。

 

 また、ジェネリックメーカーは限られた製造ラインで数多くの品目を少量生産しているため、他社の出荷停止分を埋めるだけの増産はできない。

 

 「多品種・少量生産」に陥るには訳がある。薬は長く市場にある品目ほど価格が下がるため、新しい品目を次々に発売していかなければ、利益を出し続けることができない業界構造となっているからである。

 

 さらに、日本は海外に比べ小規模メーカーが多く、1社が供給不安に陥るとたちまち他社へのシワ寄せで全体が混乱する。

 

 医薬品製造の基礎知識

 

 業界再編も簡単ではない。後発薬は全体の約3分の1が赤字に陥っているため、買収するにしても不採算品目は引き受けたくないという事情がある。

 

 実際に2020年に沢井製薬が品質不正のあった小林化工から生産設備と人員を譲り受けたが、品目や在庫は引き継がなかった。不採算の薬まで引き受けるのを回避した。

 

原因B 政府の医療費削減策による薬価下落

 

 政府は、医療費削減のためジェネリック医薬品の使用を増やした病院・薬局に金銭的インセンティブを付与する「ジェネリック医薬品使用促進策」を推し進めた。

 

 結果、ジェネリック医薬品の使用割合は、ほぼ8割となっている。

 

 医薬品製造の基礎知識

 

 それに加えて政府は、医療費削減のため薬価改訂を推し進め、薬の価格が下落し続けている。

 

 薬価改定は従来、2年置きに行われてきたが、2021年度から「中間年」を含めて毎年行っている。

 

 医薬品製造の基礎知識

 

 ジェネリックメーカー大手「沢井製薬」の木村社長によると2023年時点で3割くらいの製品が赤字になっていると述べている。

 

 今後も通常改定に近い薬価引下げが毎年行われればジェネリック医薬品企業は企業の規模を問わず立ち行かなくなる。

 

 医薬品製造の基礎知識

 

 しかし、国民医療費の増大が国の財政を圧迫する今、後発薬の薬価を上げれば当然、医科(医師)の診察報酬の引き下げが検討されることになるが、猛反発が予想され現実的ではない。

 

原因C 日本独自の製造ルール

 

 日本は一字一句、承認書どおりに薬を作らなければいけないという国際的に見ると異様なルールがあり、不必要な出荷停止を招いている。

 

 薬の承認書には、薬を製造する際の温度や、どの順番で原料を混ぜるかといった細やかなことが記される。かつては承認書と製造実態の一致が厳しく求められることはなかった。

 

 しかし、2015年に化学及血清療法研究所(化血研)が、国が承認していない方法で血液製剤を製造した為、承認書との一致が厳しく求められるようになり、2021年の省令で明文化された。

 

 欧米諸国では、製薬会社への査察によって問題が発覚しても、健康への影響を評価して、人体へのリスクが低く、安全性に問題がないことを確認できれば業務停止にせず、出荷継続を許可する仕組みもある。

 

 それに対し、日本は承認書と不一致が分かれば必ず回収する。製法上の軽微な齟齬そごが指摘され、業務停止処分を受けたメーカーもある。

 

 これは罰則的な面があり、回収に固執する必要がないという見方もある。

 

 今後も抜き打ち査察で、処分を受けるメーカーが増える可能性がある。 

 

必要な対策は?

 

 ジェネリック医薬品の供給不足の解消の為、下記の対策が考えられる。

 

 薬価改定制度の見直し:そもそも後発医薬品は価格が安いため、ジェネリックメーカーは利益が出にくい。よって、これ以上薬価が下がれば、経営が立ちいかなくなる。

 

 品質を最優先する体制の強化:製薬会社は医薬品の製造管理・品質管理体制(GMP)、品質保証体制(GQP)及び安全管理体制(GVP)の一層の強化を図るための取り組みが必要である。

 

 業界や赤字品目の再編:海外に比べ、小規模が多い日本の医薬品メーカーの業界再編や赤字品目の再編が求められる。

 

 医療保険の対象からの除外:せき止め薬や、去痰薬、解熱鎮痛剤のように、ドラッグストアなどで販売される市販薬と同じ効果がある代替可能な医薬品については、医療保険の対象から除外する。これにより、ジェネリックメーカーの赤字品目の解消につながる。

 

 製造ルールや品質基準ルールの見直し:海外メーカーは日本の厳しい製造ルールや品質基準ルールにより、利益が出にくい為、参入しにくい構造となっている。

 

 国の支援:ジェネリックメーカーが、製造ラインを増やせるように国が支援する。