自主回収のクラス分類と事例

自主回収のクラス分類


自主回収におけるクラス分類とは、医薬品、医療機器、化粧品、食品、一般消費財などの製品に品質不良や健康被害の恐れが発覚した際、その製品の使用等がもたらす健康への危険度の程度に応じて、個別の事案ごとにクラスI、クラスII、またはクラスIIIの分類が割り当てられる基準である。


自主回収のクラス分類に関するインフォグラフィック。製品の健康被害リスクに応じて、重篤、一時的・治癒可能、低リスクの3つのクラスを解説。


クラス 健康への危険度
クラスI その製品の使用等が、重篤な健康被害または死亡の原因となりうる状況をいう。
クラスII その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性があるか、又は重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。
クラスIII その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。


回収事例


以下の表は、実際に報告された医薬品等の自主回収事例をクラス分類ごとに整理したものである。


医薬品等自主回収クラス分類のまとめ画像。クラスI(重篤)、クラスII(恐れあり)、クラスIII(なし)の具体的な事例とアイコンによる視覚的図解。


クラス 回収事例
クラスI

【製剤】

・製造過程においてベンゾジアゼピン系睡眠剤であるリルマザホン塩酸塩水和物の混入が判明した。

・ニザチジン原薬および製剤の一部ロットに管理指標を超えたNDMA(発がん性物質)が検出された。

・原薬ラニチジン塩酸塩を使用した製剤から発がん性物質であるNDMA(発がん性物質)が検出された。

・原薬バルサルタンに微量のNDMA(発がん性物質)が検出された。

クラスII

【注射剤】

・バイアル(注射剤用容器)に約1mm長のセルロース系繊維が混入した。

・バイアルにガラス片が混入した。

・ゴム栓が未装着であるバイアル製品が発見された。

・保存サンプルにおいて有効成分含量が規格不適となった。

・添付の専用フィルターセットに毛髪の混入が認められた。

・承認書記載と異なる含有規格値のグリセリンを使用した。

・原薬製造工程の乾燥機器で使用している微量の鉱油が製品へ混入した。

・長期安定性試験12か月目において、製品アンプル内(注射剤用容器)に不溶性異物を認めた。調査の結果、不溶性異物は内因性のタンパク質と特定された。


【錠剤】

・安定性試験24か月で溶出規格不適となった。

・安定性試験24か月で含量規格不適となった。

・長期安定性試験で含量規格不適となった。

・毛髪の混入が認められた。

・有効成分規格不適となった。

・崩壊試験および重量偏差試験不適となった。

・安定性試験3年で溶出規格不適となった。

・異種錠剤の混入が判明した。

・錠剤表面への昆虫の付着が認められた。

・微生物限度試験において、日本薬局方参考情報に記載の許容限度値を超える真菌数が検出された。

・出荷試験の溶出結果を再確認したところデータの取扱いが不適切であり、出荷時の品質に問題があることが否定できない。

・承認書に記載のない工程を実施していることが判明した。

・出荷試験の結果を再確認したところ書類に欠落があり、出荷時の品質に問題があると考えられた。

・出荷試験の溶出性において、社内規格を下回る製品が出荷されていた。

・本製品の安定性モニタリングにおいて、定量試験が承認規格に適合しない結果が得られた。

・コーティング工程の一部作業において、承認書に記載された製造方法と異なる方法で製造されていた可能性がある。

・安定性モニタリング(9か月時点)において、純度試験(類縁物質)または溶出性試験が承認規格に適合しない結果が得られた。

・1錠に黒色異物が埋没しているとの情報を受けた。調査の結果、異物は人毛であることが判明した。


【化粧品】

・化粧品製造販売届を提出せず、また法定表示をせずに製造販売した。

・法定表記が記載されていたラベルを容器裏面に貼るべきところを、貼らずに出荷した(注意表記・販売名・製造販売元)。

・製品のパッケージに記載している成分名称について誤植があった。

・長期保存試験(24か月目)において溶出性が承認規格に適合しない結果となった。

・成分表示(アルコール71%)において、製品に含まれるアルコール濃度が表示濃度より低いことが判明した。さらに容器のポンプ不良により中身が出にくい事象が起きている。

・変色があるとの問い合わせがあり、苦情品を検査した結果、当社の出荷基準を上回る量の細菌を検出した。調製工程で防腐剤が不均一になって仕上がり、一部の製品に十分な防腐効果が付与されなかったものと考えられる。

クラスIII

【注射剤】

・有効成分名称の誤記があった。

・溶解液量を5mLと記載すべきところ5mgと誤表示した。

・個装箱の濃度表示で0.25%と表示すべきところが0.5%と誤記があった。


【錠剤】

・個装箱に使用期限および製造番号が未捺印であった。

・別製品の添付文書が誤って入っている可能性が生じた。

・外観検査で不良品として除外するため識別マークした製品が誤って良品に混入した。


【点眼液】

・本製品の個装箱に製造番号およびGS1コードを誤印字した製品が発見された。


【化粧品】

・全成分表示の順序を誤って記載していた。

・製品の直接の容器に製造販売業者の住所を記載していない状態で出荷した。

・商品の直接の容器または直接の被包に、製造ロット番号を記載していない状態で出荷した。

・本来の包装とは異なった2次包装(外箱)であることが判明した。

・英国での製品製造時のミスにより乳化剤の成分が不足していた。

・本製品の外箱に表示されている販売名が、製造販売届出名称と異なっており、表示の誤った製品が市場に出荷された。

・販売名「クールミントボディーミスト」という商品の貼付ラベルに製品名として「クールミントボディミスト」と記載しており、届出書の販売名と製品ラベルの販売名が一致しない。


【医薬部外品】

・包装パッケージに製造番号の記載の漏れが判明した。


法令に基づく手続きについて


製品の自主回収(リコール)を実施する際は、対象となる製品カテゴリに応じて関連法令に基づいた行政への報告・届出が義務付けられている。

  • 医薬品・医療機器・化粧品など(薬機法): 回収に着手した際、製造販売業者は速やかに独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)および管轄の都道府県への報告が必要である。
  • 食品(食品衛生法・食品表示法): 2021年6月より、食品等の自主回収を行う場合は原則として「食品衛生申請等システム」を通じて行政(管轄の保健所等)への届出が義務化されている。
  • 一般消費財(消費生活用製品安全法など): 製品の欠陥により重大な製品事故が発生した場合、事業者は速やかに消費者庁へ報告する義務がある。


【ポイント】


1. 異物混入および交叉汚染を防ぐハード・ソフト両面の手法強化

クラスIでの「異成分の混入」、クラスIIでの「繊維・ガラス片・毛髪・昆虫の混入」は、製造環境のクリーン度管理や作業員の衛生管理不足に起因する。ハード面としては、差圧管理や防虫対策の高度化、高精度な自動異物検査装置の導入が求められる。ソフト面としては、製造ラインの洗浄バリデーションを厳格化し、前製造品や洗浄剤の残留(交叉汚染)を徹底的に排除するとともに、作業員の更衣基準の遵守徹底とクオリティカルチャーの醸成が必要である。


2. 変更管理・逸脱管理システムの厳格運用とライフサイクルモニタリング

「承認書に記載のない工程の実施」や「安定性試験での規格不適」は、承認内容と実際の製造現場との乖離、あるいは経時的な品質劣化の予測不備を示している。製造方法や製造設備の変更時には、検証(バリデーション)を含む厳格な変更管理手続きを実行し、予期せぬ逸脱が発生した際は根本原因(RCA)を追究してCAPA(改訂・是正処置・予防処置)を講じる必要がある。さらに、市販後も製品品質照査(PQR)を通じて継続的に品質トレンドを評価し、不適合の兆候を早期に検知する体制の維持が重要である。


【用語解説】

自主回収 医薬品の製造販売業者等が、流通させた製品に品質、有効性、安全性上の問題、またはその恐れがあることを知った際、保健衛生上の危害拡大を防止するために、自らの責任において市場からその製品を回収する手続きのこと。
クラス分類 回収される製品がもたらす健康への危険度の程度に応じて、厚生労働省の基準に基づきI、II、IIIの3段階に分類される制度。数字が小さいほど危険度が高く、クラスIは重篤な健康被害や死亡の原因となりうる状況を指す。
NDMA N-ニトロソジメチルアミンの略称。環境中や食品、医薬品の製造工程において意図せず生成されることがある有機化合物であり、国際がん研究機関(IARC)によりヒトに対する発がん性の恐れがある物質(グループ2A)に分類されている。
日本薬局方 医薬品医療機器法に基づき、医薬品の適切な品質を確保するために、その適正、純度、品質等に関する基準を定めた国の公定書。定期的に改訂が行われ、最新の科学的知見に基づいた試験法などが定められている。
溶出試験 経口固形製剤(錠剤やカプセル剤など)から、有効成分が規定の液(人工胃液や人工腸液など)に溶け出す速さと量を測定する試験。医薬品の体内での吸収性や、ロット間の品質の均一性を評価するための重要な指標となる。


実際の回収情報の閲覧方法

過去および現在進行中の回収事案や、そのクラス分類の実際の事例については、以下の公的機関ウェブサイトで閲覧・確認することができる。

  • PMDA(医薬品医療機器総合機構)回収情報: 医薬品や医療機器などの詳細な回収情報(対象ロット、回収理由、クラス分類など)が検索・閲覧可能である。
  • 厚生労働省 公開回収事案検索: 食品衛生法等に基づき届け出られた食品の自主回収情報が確認できる。
  • 消費者庁 リコール情報サイト: 食品から家電、自動車、生活用品まで、幅広いカテゴリの製品に関する回収・無償修理などの情報が横断的に集約されている。

 

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