医薬品におけるクレームとは、製品の品質、有効性、安全性等に対する顧客(医療従事者や患者)からの苦情、および品質改善要求を指す。
医薬品は厳格なGMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に基づいて製造されているが、依然として様々な要因による自主回収等の事例が毎年報告されている。

回収理由の内訳としては、異物混入が最も多く、次いで入り目不足であり、これら上位2項目で全体の約30%を占める。
以下に、国内の主なクレーム事例を分類して示す。なお、異物混入の具体的な内訳は、昆虫類、毛髪、金属、プラスチック、ガラスなどが挙げられ、昆虫類の混入が約40%、次いで毛髪が約20%弱、金属が約10%に上るという報告データが存在する(専門機関による一般的な統計比率の目安)。
| 異物 | クレーム事例 |
|---|---|
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異物混入 |
昆虫類、毛髪、金属、ガラス片、プラスチック片、繊維状物質 |
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固形物混入 |
凝集物、粉末、微粒子 |
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液付着 |
油状物、斑点、汚れ |
| 入り目不足 | クレーム事例 |
|---|---|
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内容量 |
錠剤不足、欠錠(錠剤抜け) |
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内袋数 |
PTP・SPシート不足、アルミ袋不足 |
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容器数 |
個装箱不足 |
| 外観 | クレーム事例 |
|---|---|
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色 |
着色、退色、色調差、脱色、斑点、局所着色 |
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形状 |
錠剤の大きさ不良、表面凹凸、塊状化、粉末混在 |
| 破損 | クレーム事例 |
|---|---|
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固形破損 |
ひび割れ、縁欠け、カプセル割れ、糖衣層剥離 |
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内装破損 |
ポケット変形、アルミ箔破れ、シート反り |
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容器破損 |
割れ、口欠け、変形、亀裂、破れ、キャップ脱落 |
| 包装状態 | クレーム事例 |
|---|---|
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接着 |
粒噛み、微粒子噛み、シート接着不良、アルミ箔のシワ、粉漏れ、液飛散 |
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捺印 |
捺印なし、判読不良、退色、捺印位置ズレ |
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使用性 |
利便性、保管性、収納性、廃棄性 |
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封かん |
テープ剥がれ、テープ封なし |
| その他 | クレーム事例 |
|---|---|
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作用 |
副作用、効果異常、効果不良 |
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匂・味 |
異臭、酸味、苦味、しびれ |
下記は、錠剤の製造工程において発生しうる代表的な外観不良を項目別に分類したものである。

これらの不良は、製品の品質に対する信頼を損なうだけでなく、重大な健康被害やクレームに直結するため、外観検査(目視検査または自動外観検査機)による確実な排除が求められる。以下に各不良項目とその特徴を詳細に解説する。
【代表的な錠剤の外観不良と特徴】
1. 汚点(おてん)
「ゴミの混入等」を特徴とする。原薬や添加剤の夾雑物、製造環境由来の塵埃、あるいは製造設備の摩耗粉や潤滑油などが錠剤表面に付着・埋没した状態である。異物混入は最優先で排除すべきクレーム事例である。
2. ヒビ
「表面のヒビ割れ」を指す。打錠時の圧縮圧の過不足や不均一、あるいはコーティング後の乾燥工程における急激な温度変化・水分蒸発のバランス崩れなどによって発生する。
3. 角(つの)
図表で「角」として示されているのは、主に「糖衣不良」による突起物の形成である。コーティング液の粘度が高すぎる場合や、乾燥速度が不適切な場合、錠剤表面に液が偏り、角のような突起が残留・固着してしまう現象である。
4. キャッピング
錠剤の上部(または下部)が帽子を脱ぐように層状に「はく離」する現象である。打錠時に空気を巻き込むことや、結合剤の不足、顆粒の過乾燥、あるいは杵(きね)の摩耗などが主な要因となる。
5. 斑(まだら)
「糖衣ムラ、こすれ等」を指す。コーティング液の分散不良、乾燥速度の不均一、あるいはコーティングパン内での錠剤同士の過度な摩擦により、表面の色調にムラや汚れが生じる状態である。
6. 形状異常
文字通り「寸法、形の異常」である。打錠時の臼(うす)や杵の適合不良、摩耗、あるいはダイへの顆粒充填量のばらつきなどにより、規定のサイズや形状を満たさない状態を指す。
7. エッジの欠け
錠剤の外周である「エッジ部の欠け」であり、物理的な衝撃によって破損する現象である。コーティング時のパン内での回転、コンベア等による搬送、包装工程での外部衝撃によって発生しやすく、摩損度の高い錠剤で特に注意が必要である。
これらの外観不良は、単なる見栄えの問題にとどまらず、患者に含量不均一(異物混入や欠けによる有効成分量の変動)の疑念を抱かせ、服薬コンプライアンスの低下や不信感へと直結する。したがって、厳密な外観検査体制の構築と、不良発生時における迅速な原因究明およびCAPA(是正措置・予防措置)の運用が、市場への不良品流出を防ぐ最後の砦となる。
医薬品は人命や健康に直結する製品であり、徹底した品質保証体制のもと、不良品の市場流出を完全に防止することが絶対条件である。
品質不良に起因するクレームは、顧客および社会からの信用失墜を直接的に招き、単なる業績悪化にとどまらず、企業存続の危機に直面するリスクを孕んでいる。
製造業全般において不良品の流出防止は最重要課題であるが、昨今はSNS等の普及に伴い、製品不良や異物混入の事象が瞬時に拡散される。そのため、メディアやインターネット上での風評被害・炎上リスクはかつてなく増大している。

不良品の発生は製造コストの増大に直結し、次のように企業へ多大な経済的・法的損害をもたらす。
1. 直接損害
@ 不良製品の回収費用(代替品調達費用、運送費用、コールセンターの設置運用費用など)
A 広報・告知費用(新聞社告、記者会見の実施、ユーザーへの個別通知など)
B 再発防止費用(根本原因の究明、対策費用、設計および製造工程の見直し)
2. 民事・行政・刑事責任
@ 製造物責任(PL法)に基づく損害賠償金および訴訟対応費用
A 行政からの業務改善命令・業務停止処分などの不利益処分
3. その他の損失
@ 特約店や医療機関との取引停止、流通市場からの製品撤去
A レピュテーションリスクによるブランドイメージおよび信用の著しい低下
製品の品質は顧客が最も重視する要素であり、企業の信頼を支える源泉である。万が一、不良品が発生した際には、迅速な原因究明と是正措置を講じ、品質管理体制を再徹底することが極めて重要である。
クレームが発生した際の初期対応は、あらゆる業務に優先して迅速に行うことが鉄則である。対応の遅れは顧客の不信感を増幅させ、事態をさらに深刻化させる要因となる。
初動対応においては、自社の不利益回避を優先する自己本位な姿勢は厳に慎まなければならない。まずは顧客の指摘を真摯に傾聴し、客観的な事実確認と適切な謝罪を行った上で、速やかに善後策を講じることが求められる。
必要に応じて速やかに現地へ赴き、直接対応にあたることで誠意を示し、信頼回復に努める。特に市販後製品に関するクレームは、健康被害の拡大を防止する観点からも、一刻を争う迅速な対応が不可欠である。
近年、顧客からのクレーム件数は増加傾向にあり、その要求内容も複雑化・高度化している。
業務とはいえ、最前線でこれら高度なクレーム対応にあたる担当者の精神的負荷は極めて大きい。
企業は、特定の従業員に負担が集中する属人的な対応を排除し、組織的なクレーム対応フローを構築した上で、対応にあたる従業員をバックアップする体制を整備しなければならない。また、過度なストレスから担当者を守るためのメンタルヘルスケア体制の構築も、組織マネジメントにおける不可欠な管理項目である。
【ポイント】
1. クレーム発生時の迅速なCAPA(是非措置・予防措置)の運用
万が一クレームが発生した場合は、顧客への初期対応という表面的な処理にとどめず、QMS(品質マネジメントシステム)に基づき速やかにCAPAを回す必要がある。根本原因(Root Cause)を科学的根拠に基づいて究明し、製造工程や設備の改善、あるいは手順書(SOP)の改訂を実施することで、類似トラブルの再発を確実に防止しなければならない。
2. 組織的なリスクマネジメントと「Quality Culture(品質文化)」の醸成
メディアやSNSでの炎上リスクを最小限に抑えるためにも、現場の異常やヒヤリハットを隠蔽せず、迅速に経営層までエスカレーションできる「風通しの良い組織風土」の構築が求められる。担当者のメンタルケアを含め、品質と安全性を最優先するQuality Cultureを全社的に醸成することこそが、結果として最大の危機管理となる。
| GMP | 「Good Manufacturing Practice」の略。医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準であり、原料の入庫から製造、出荷にいたる全ての過程において、製品が安全かつ均一な品質で製造されるよう定めた厳しい規則のこと。 |
|---|---|
| 入り目不足 | 医薬品の製造・包装工程において、規定された数量や容量(錠剤の個数、充填液量など)が本来の基準に満たない状態で包装・出荷されてしまう不具合のこと。 |
| レピュテーション リスク |
企業の評判、ブランドイメージ、信用などが失墜することにより、経営や業績に多大な悪影響を及ぼすリスクのこと。昨今ではSNSやインターネットによる風評被害がこれに大きく該当する。 |
| CAPA | 「Corrective Action and Preventive Action」の略。不適合(クレームや不良)の根本原因を究明して排除する「是正措置」と、今後起こり得る問題を未然に防ぐ「予防措置」を組み合わせた品質改善プロセスのこと。 |
| QMS | 「Quality Management System」の略(品質マネジメントシステム)。製品の品質を継続的に維持・向上させるために、組織の業務プロセスや体制を体系的に管理・運用する仕組みのこと。 |
